304
ヤクスギ林内におけるスギ稚樹の生育環境
高嶋 敦史
(九大生資学府)
吉田茂二郎
村上拓彦
溝上展也
 屋久島は,生態系・生物群集の顕著な見本である点やその自然の美しさを評価され,世界自然遺産にも登録されている。しかし,樹齢1,000年を超える個体を多く含み,貴重な生態系を育んでいるヤクスギ天然林内では,スギの個体数減少と不健全な更新状況が明らかになってきている。そのため,ヤクスギ天然林内でのスギ稚樹の生育環境を把握し,今後の更新が期待できるか評価することが必要である。本研究では,スギ稚樹生育箇所の光環境とマイクロサイトに着目し,解析を行っている。


305
照葉樹天然生林に隣接したスギ林の下層植生における林縁効果
〜田野演習林における解析事例〜
山川博美
(宮大農)
伊藤 哲
 人工林に対する周囲天然林からの生物的および物理的林縁効果は、人工林内の下層植生の発達や多様度に大きく影響すると考えられる。しかし、これまで照葉樹林帯で行われた研究では、天然生林がスギ人工林内の下層植生に与える林縁効果は、冷温帯域と比較して明瞭でないと報告されている。本研究では、宮崎大学田野演習林内において比較的明瞭な林縁効果が観察できるスギ人工林(50年生)を対象に林縁効果の実態を調査した。スギ人工林内に天然生林(91年生)と隣接する形で55m×35m(内5m×35mは天然生林)のプロットを設置し、プロット内で樹高50cm以上の木本種を対象に毎木調査を行った。その結果、下層植生の種組成や個体サイズおよび密度に対する林縁効果が、林縁から30m程度の範囲で確認された。また、種組成は林縁効果が弱い地点ではタブノキ、ユズリハが多く存在したのに対し、林縁付近ではアラカシ、イチイガシおよびハナガガシが出現した。これらの結果および周辺林分との比較に基づき、林縁効果の発現を左右する要因を考察した。


306
異齢パッチを含むスギ人工林における下層植生の種組成タイプと分布
−湯布院における調査事例−
伊藤 哲
(宮大農)
山川博美
作田耕太郎
溝上展也
 近年、人工林の異齢林経営は持続的森林経営の一方策として期待されている。異齢林経営につ いては、植栽木の成長や施業効果などm技術的な知見が集積されつつある。しかし、木材生産以 外の機能的な側面については、異齢林経営がもたらすメリットやデメリットに関する知見は未だ 不十分である。我々は、植物種の保全や表層土壌の保護など、森林の諸機能を発揮する上で重要 な要素である下層植生の健全性に着目し、人工林の下層植生に対する施業方法等の影響を調査し ている。本研究では、小面積皆伐施業によって異例パッチが形成されたスギ人工林の下層植生を、 階層構造の発達および生育樹種の特徴という二つの視点から分析し、下層植生の機能を考慮した タイプ分類とその分布要因の把握を試行した。その結果に基づき、スギ人工林における階層間の 相互作用およびこれに及ぼす小面積皆伐の影響を考察する。