601
九州山地の落葉広葉樹林帯におけるニホンジカの胃内容
矢部恒晶
(森林総研九州)
當房こず枝
吉山桂代
小泉 透
 宮崎県椎葉村の標高約1000〜1200mの地域において、造林地のシカ防除ネットに絡んで 死亡したシカ個体、死亡したテレメトリー調査個体、狩猟による捕獲個体などから、 27例の胃内容を回収し、ポイント枠法による胃内容分析を行った。その結果、四季を 通じて草本類が木本類よりも高い割合を示し、調査地域のシカの食性は、南日本の常 緑広葉樹林帯のシカに見られるようなブラウザー(木の葉食)型よりも、北日本のシ カと同様のグレイザー(草本食)型に近いと考えられた。また調査地域にはモザイク 状に若齢造林地等が分布していることから、そのような場所での草本の採食も反映し ていると考えられた。草本類の中ではイネ科に代表されるグラミノイドの割合が高か ったが、その中でシカが高い嗜好性を持つスズタケの割合は比較的低く、調査地域に おけるシカの高密度化によるスズタケ群落の減少を反映している可能性が考えられた。


602
福岡県におけるシカによるスギ・ヒノキ剥皮害の発生状況
池田浩一
(福岡県森林研セ)
 造林木の材質劣化をもたらすシカによる剥皮害の発生状況について、福岡県豊前市岩屋、 嘉麻市小野谷、同市千手で調査した。被害樹種は、3調査地ともヒノキが多く、スギは少 なかった。オスジカによる角こすり被害と考えられた岩屋と小野谷のヒノキ被害木では、 同一木が複数回剥皮される重複被害率が小野谷で有意に高かった。長期的にシカの密度が 調査されている岩屋において、間伐された被害木から年次別被害痕数を推定した結果、剥 皮害とシカ密度の相関は低かった。千手のヒノキ林では、根張り部が剥皮され、剥皮部が 樹幹にまで達する例は少なかった。剥皮中央付近の材表面には歯痕と思われる跡があった ことから、角こすり被害ではなく樹皮摂食被害ではないかと考えられた。


603
スギ・ヒノキ植栽地における各種有害獣防護ネット効果の比較
井上幸子
(九大宮演)
熊谷朝臣
内海泰弘
馬渕哲也
久保田勝義
壁村勇二
長澤久視
梶原幸治
杉山了一
九州大学宮崎演習林ではシカの生息数の増加にともない,林内全域にわたりシカの摂食・角研ぎといった樹木への被害が深刻になっている.特に人工造林地内において,新植後数年間はこうしたシカへの対策を講じなければ,植栽木の生育は困難な状況にある.この対策の一つに,造林地周囲への有害獣防護ネット(以下,ネット)の設置がある.これまで様々な種類のネットが発表され,それぞれの効果が説明されているが,その根拠は正当な実験計画に基づいているとは言い難い.そこで本研究では,ネットの種類による効果の相違を把握することを目的として,標準的なもの,ネット内に編み込まれたステンレスを増加させたもの,中段より下のネットを二重にしたものの3種類の材質・形状が異なるネットについて,充分な繰り返し数が得られる比較実験を行った.今回,本研究の実験計画とこれまで得られた結果について報告する.