605
マツ小集団枯れ林分における枯死木の発生動態
田中一二三
(九大農院)
保坂武宣
玉泉幸一郎
 海の中道海浜公園で発生するマツの小集団枯れは、根系癒合を経由したマツ材線虫病への罹病によって生じている可能性のあることを報告した。これらの結果を受けて、もし小集団枯れの主な原因が根系癒合によるものであれば、枯死木の発生は根系の癒合形態に対応して起こっていると予想される。そこで、本研究では、小集団における枯死木の発生を時系列的に追跡し、根系癒合との関係を解析することとした。調査地は2006年から小集団枯れの発生した林分である。2007年までの枯死木については根系の癒合状態を調べるためにすでに掘り起こし調査を実施しており、今回はさらに2008年の枯死木の根茎癒合調査を追加実施した。この3年間の枯死経過と根系癒合との関係について議論する。


606
マツ材線虫病における電撃の処理効果について
保坂武宣
(九大農)
玉泉幸一郎
 電撃印加装置を用いたマツ材線虫病防除法について研究を行なっている。この中で線虫の人工接種以前の電撃処理によって枯損率が低下する現象が観察された。このことは、電撃が直接にマツノザイセンチュウ(以下センチュウ)にダメージを与えているのではなく,センチュウへのマツの抵抗性を示唆している。そこで、九州電力総合研究所前原分場に植栽されたクロマツを用いて印加実験を行った。印加処理は、無印加接種、接種前印加、接種前後印加の3処理とし各処理20本とした。処理開始は2008年7月17日から、8月20日にセンチュウ10,000頭/本を接種。その後の病徴進展について調査し電撃処理によるマツ材線虫病への誘導抵抗性について議論する。


607
クロマツにおけるマツ材線虫病抵抗性とマツノザイセンチュウの移動との関係U −中程度の抵抗性クローンを用いた接種試験−
森康浩
(福岡県飯塚
農林事務所)
 マツ材線虫病抵抗性メカニズムを解明するため、マツノザイセンチュウの樹体内移動と抵抗性との関係を調べた。中程度の抵抗性をもつクロマツの苗木に島原個体群5000頭ずつを接種し、50日後の線虫の分布を調べた。その結果、発病個体では、接種点付近で306-11002頭/g(DW)、接種点から20cmの部位で254-18218頭/g、接種点から40cmの部位で2-14494頭/gであった。一方、遺伝的に同じ非発病個体では、それぞれ3-219頭/g、0-11頭/g、0-2頭/gと接種点付近でも線虫数は多くなかった。次に、接種枝を環状剥皮して接種試験を行った。剥皮個体では線虫の主な移動経路の皮層樹脂道が分断されたにも関わらず、島原個体群を接種した場合の発病率が70%と、遺伝的に同じ非剥皮個体の発病率(50%)に比べて高かった。以上から、線虫の移動抑制と抵抗性とが密接な関係にあるわけではないと考えられた。


608
マツノマダラカミキリ標本を用いたマツノザイセンチュウのDNA分析の試み
川副まり子
(九大農)
白石進
 マツノザイセンチュウの原産は北米であると推定されており、感染木材の輸送によって日本を含め各国に広がったと考えられている。現在、ザイセンチュウのrDNA塩基配列で検出された種内変異をもとにした、ハプロタイプの存在がいくつか推定されている。ザイセンチュウの媒体であるマツノマダラカミキリの昆虫標本からザイセンチュウのDNAを抽出してシークエンスを読むことが出来れば、古い昆虫標本から過去のハプロタイプの分布の調査が可能になる。 今回は、その基礎として、マダラカミキリ標本中のザイセンチュウDNAの単離・増幅を試みた。