206
九州森林管理局内における天然林の健全度調査
小柳憲次郎
(九大生資環),
溝上展也,
吉田茂二郎
 九州森林管理局管内のアカマツを含むモミ・ツガ天然林は、その面積が減少傾向にあり、現在では限られた地域のみ存在する貴重な森林である。特に霧島のモミ・ツガ天然林の健全度がここ10年で健全度が減少していることが報告されている。考えられる要因として、風害、大気汚染、シカ害など様々な要因が挙げられ、それらが複雑に絡んでいるため、はっきりとした原因は明らかにされていない。この原因解明のためにも、広域での樹木の健全度の定量的な把握が必要である。そこで本研究では九州森林管理局管内における天然林の健全度に関する統一的なデータを得ることを目的とし、霧島・屋久島の天然林での調査を行ったので、その結果を報告する。


207
ヤクスギ天然生林固定試験地におけるCWD(Coarse woody debris)の定量化
伊高 静
(九大生資環),
吉田茂二郎,
溝上展也,
小石裕佳里
 森林生態系における枯立木や倒木・落枝(CWD: Coarse woody debris)の存在は、微生物・昆虫・小動物等の生物多様性を維持する上で重要であり、さらには栄養循環・土壌形成そして長期にわたる炭素固定源としても重要視されてきている。また、京都議定書では、森林による炭素収支の推定が求められており、CWDの定量化は大変意義のあるものである。本研究の目的は、九州大学森林計画学研究室が管理している、屋久島の長期固定試験地において、ヤクスギ天然生林のCWDの定量化をすることにある。ヤクスギは、その樹脂の影響で腐りにくく、樹齢2000年以上もの大木になり、百年以上も前に伐採されたものや、数百年前の風倒木が腐らずに残っており、世界的にも希少な森林形態を成している。今回の発表では、CWD定量化の手法、結果、他の森林との比較、そして今後の研究の方向性について議論していきたい。


208
木質バイオマス利用を巡る最近の情勢について
寺岡行雄
(鹿大農)
 カーボンニュートラルであり、また国内での賦存量が多いエネルギー源として木質バイオマスが注目されている。石炭火力発電所で熱量見合いで5%の木質バイオマスを混焼させることに技術的な問題はなく、実用化されれば今後相当量の需要が見込まれる。石油価格の上昇と住宅着工数の減少から、建設廃材は十分な供給が困難な状況となっている。これまで採算が合わないとされてきた林地残材が競争力を確保できる時期に来ている。本報告では、特に九州内でのバイオマス燃料需要を巡る情勢の変化について概観し、木質バイオマス燃料の供給を前提とした場合の林業生産システムにおける変革について検討を行った。さらに、カーボンオフセットにおける吸収源クレジットが森林経営に及ぼす影響についても考察した。


209
システム収穫表と採材アルゴリズムをもちいた利用材積を最大化する間伐計画の策定
中島 徹
(東大農),
鹿又秀聡,
松本光朗,
龍原 哲,
白石則彦
 本研究では、システム収穫表(LYCS)と最適採材アルゴリズム(WoodMax)を連動させることによって、施業計画に応じた利用材積を推定することを目的とした。利用材積の推定には、熊本県、宮崎県の主間伐対象林分において直材・曲材・又材等の形質や、直径、樹高、末口径、長級が記録された立木および丸太調査データをもちいた。そのうえで、森林組合等の聞き取り調査をもとに、立木の形質に応じた採材パターンをアルゴリズムに組み込み、推定した利用材積を実測値によって検証した。最後に、この採材アルゴリズムとシステム収穫表を組み合わせ、林況の異なる小班別にシミュレーションを行うことによって、個別林分の集合体として地域レベルの利用材積を最大化する間伐計画を示した。


210
植栽当年の下刈り
右近健一朗
(鹿大農),
竹内郁雄
 人工林皆伐跡地では、再造林されない放棄地が増加している。放棄地問題を解決する一つの手段として、あるいは再造林を進めるためにも初期保育の低コスト化が必要と考えられる。本報告では、低コスト化に関する基礎資料を得る目的で、皆伐後に地拵えを行い植栽した林地における植栽当年の下刈りについて検討を行った。調査地は熊本県南部、宮崎県南部、鹿児島県東部にあるスギ、ヒノキ人工林皆伐跡地で、いずれも植栽当年の林地である。調査は、下刈り作業に影響すると予想される地形条件、伐採搬出終了から地拵えまでの期間、地拵え前の雑草木の再生状況、などについて行った。また、下刈り前の雑草木の繁茂状況や、雑草木間に視認可能な植栽木の本数割合などについても調査した。これらの要因が植栽当年の下刈り作業に及ぼす影響について検討したものである。