406
九州南部の丘陵地帯における過去100年間の里山景観の変化に伴う生物多様性の劣化
森崎達也
(宮大農),
伊藤 哲,
宗円典久,
山口絵里香
 2001年から2005年に実施された国連ミレニアム生態系評価を受けて、わが国でも2007年より日本の生態系の特徴でもある里山里海を対象にサブグローバル評価の実施が進められている。開発や過剰利用、管理放棄によって生態系サービスが劣化してきているなかで、生態系サービスの基盤となる生物多様性の実態評価や変化要因の分析は、持続的な社会を実現するための重要な支援情報を提供する。本研究では、里山景観の変化に伴う生物多様性の劣化を絶滅危惧種に着目して評価することを目的とした。宮崎市高岡町の丘陵地帯を対象に地形図と航空写真によって1900年から1999年までの4年代の土地被覆を図化し、土地利用形態の変遷を調べた。また、宮崎県版レッドデータブックの生物種リストを用いて絶滅危惧種の生育環境、減少要因を考慮した解析を行った。これらの結果をもとに、土地利用の変化が生物多様性に与えた影響について考察する。


407
渓畔域の植生支持力および劣化度合いに基づく渓畔林再生の優先度評価
―宮崎県一ツ瀬川上流域における事例―
宗円典久
(宮大農),
伊藤 哲,
光田 靖,
佐藤 妙
 渓畔林は水域と陸域の接点として重要な生態系である。しかし近年、渓畔林の多くは土地開発や林種転換などにより劣化・改変が著しく、再生・修復技術の確立が急がれる。渓畔林の再生・修復を行う際、全ての渓畔域を対象にすることは困難であり、環境保全効果の高い渓畔域から優先的に行う必要がある。本研究では、宮崎県一ツ瀬川上流域において、渓畔域の植生支持力および劣化度合いを把握し、これに基づく渓畔林再生候補地の選定手法を提示することを目的とした。一ツ瀬川上流域の主な流路沿い(累計流下距離約100km)において調査を行い、サワグルミなどの渓畔林構成種の個体位置を記録した。また過去の航空写真から、調査対象域の土地利用履歴を把握した。得られたデータをGIS上で地形データと重ね合わせ、地形構造および土地利用履歴に対応した渓畔林構成種の分布を推定するモデルを構築し、これを基に渓畔林再生の優先度評価を行った。


408
シダレザクラとソメイヨシノおよびエドヒガンにおける枝と葉の量的関係の比較
片渕郁哉
(九大生資環),
作田耕太郎,
陶山健一郎
 発表者らはシダレザクラの特徴的な樹形が葉の生理的特性や個体の成育に与える影響について調査を行なっており、これまでにソメイヨシノとの比較から、シダレザクラの個葉の光合成能力や水分生理特性などが非常に特異的であることを明らかにした。しかしながら、単木の生産性や水分特性について検討していく上では、枝と葉の量的関係などについても明らかにする必要がある。枝と葉の量的関係には樹冠の構造や葉の大きさと形など種に固有の遺伝的性質が大きく関与すると考えられる。本研究では、シダレザクラとソメイヨシノに加えてシダレザクラの原種とされるエドヒガンの3種について、枝と葉の量的関係を比較し、それらの差異について明らかにすることを目的とした。


409
ボランティアにより植えられたヤマザクラの成長と土壌条件
猪上信義
(福岡県筑後農林事務所),
野田 亮,
佐々木重行
 福岡県星野村石割岳の北斜面にはかつてヤマザクラの群生地があったが、近年急速に衰弱や枯損が進行した。村から相談を受けた県の森林林業技術センターでは、残った木から種子を採取して苗木を育成した。それを村ではボランティアの力を借りて、自生地の近くのスギ林跡地に植栽した。しかし植栽場所を指定せずに参加者の自由意志に任せたため、植えられた場所の地形や土壌が様々であり、その後の成長にかなりバラツキが生じている。 そこで現在までの生育状況と土壌条件(主に土壌の堆積区分)を比較検討したところ、ヤマザクラの自生地は一般的には斜面中部〜上部のやや乾燥した場所に多く見られるが、生育そのものは斜面下部の適潤地で良好であった。また植栽時の苗木の大きさは、3年後の生育状況にも影響しているようである。


410
潮害防備保安林におけるクロマツ天然下種本数管理試験
山形克明
(九州森林管理局森林技術セ),
宮本和美
 宮崎市一ツ葉海岸においては、松くい虫被害により裸地化した虫食い状態の被害地では天然下種によってクロマツが高密度で生育している。海岸保安林としての防災機能を被害前の状態に回復させるためには、これらクロマツの樹幹を早期に太くして下枝の張りを発達させるなど個体形状を健全化させて樹勢の旺盛な松林に誘導する必要がある。本試験においては、平成12年度から天然下種クロマツ林の密度管理(特に平成19年度は強度な本数調整を実施)とニセアカシア処理等の環境管理を行うとともに、クロマツ個体の成長過程等を調査しているので、これまでの経過について発表する。