501
マツノザイセンチュウを接種されたクロマツの遺伝子発現プロファイリング
管 蘭華
(九大生資環),
白石 進
 マツノザイセンチュウをクロマツ(非抵抗性個体)に接種し、接種から枯死への病徴の進展に伴い発現してくる遺伝子を調査した。線虫接種は主軸当年枝に行い、輪生側枝の当年枝をサンプリングして、RNA保護液に保存した。保存当年枝からトータルRNAを単離し、cDNA・二本鎖cDNA合成を行い、変法ODD(ordered differential display)を用いて各ステージで発現する遺伝子のODDプロファイルを解析した。各ステージにおけるODDプロファイルの変化と病徴との関係について報告する。


502
マツ材線虫病抵抗性クロマツのトランスクリプトーム解析
能勢美峰
(九大生資環),
白石 進
 マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus;以下線虫)によって引き起こされるマツ材線虫病に抵抗性を示すクロマツ(Pinus thunbergii)個体の抵抗性要因を解明するために、トランスクリプトームの網羅的解析を行った。抵抗性と非抵抗性個体に線虫5,000頭と、コントロールとして滅菌水を接種し、接種3日後に分析用サンプル(当年枝)を採取した。改良Long-SAGE法を用いて4つのライブラリーを構築し、ライブラリー間の比較を行った。その結果、線虫接種によって抵抗性と非抵抗性個体の両者でPRタンパク質などの遺伝子発現が誘導され、逆に成長や光合成などに関連する遺伝子が抑制されていた。また、抵抗性個体ではリポキシゲナーゼや塩ストレス耐性などに関与すると推定されている遺伝子が、非抵抗性個体ではタンニン合成などに関与する遺伝子の発現量が増加することが明らかになった。


503
マツノマダラカミキリの羽化脱出と降雨との関係
鈴木敏雄,
岡部武治,
吉田成章
 マツノマダラカミキリの羽化調査において、降雨時に少ないとする報告があるが、その関係について羽化脱出データ、降雨データを使って解析したものはない。欠測のなしで毎日の羽化脱出が調査された大規模データを使って複数年の解析を行った。事前に降雨を予測して羽化脱出が減少するといったことはなく、降雨の次の日の調査で羽化脱出数が減少する傾向が見られた。降雨によって羽化脱出数が抑制されたとすると、雨が止んだ後減少した分だけ羽化脱出数が増加すると考えられるが、この関係が説明できない場合が多くあり、羽化後脱出できなかった個体が死亡している可能性を示唆した。また、雨量が少ない場合羽化脱出に対する影響は少ないと見られた。降雨が続いた場合は、羽化脱出の抑制が持続することはないと見られた。


504
マツ伐根から羽化脱出するクロカミキリからのマツノザイセンチュウの分離の試み
田中一二三
(海ノ中道海浜公園管理セ),
隈 達也,
保坂武宣,
玉泉幸一郎
 演者らはこれまでの研究において、マツ材線虫病で枯死した根系内においてマツノザイセンチュウは最大3年間程度生存していることを確認した。そこで、これらのマツノザイセンチュウがマツ材線虫病の感染源となるかどうかを枯死木の根系から羽化脱出するカミキリ類のセンチュウによって検討したが、マツノザイセンチュウの保持を確認できなかった。しかし、当該試験で分離培養されたセンチュウを同定に供したことから、培養過程でマツノザイセンチュウが脱落した可能性が残されていた。そこで、本研究においては、分離したセンチュウをDNA解析により直接同定することを試みた。本研究においては、再度、マツ伐根から分離されたセンチュウを同定して、伐根内での生存期間を推定した。さらに、伐根から羽化脱出するカミキリの中で特に多く認められるクロカミキリを対象としてセンチュウ分離とDNA解析を行った。


505
クロマツ若齢林におけるマツノマダラカミキリ成虫の生息活動状況
大久保惠介
(鹿大院農),
曽根晃一,
畑 邦彦,
林崎 大
 鹿児島県桜島では2004年までに多くのクロマツ高木が枯死し、高木減少後は若齢のクロマツを中心とした枯損が今なお続いている。そこで本研究では、クロマツ若齢林でのマツノマダラカミキリ(以下カミキリ)成虫の行動と生息状況を明らかにするために標識再捕調査を行った。桜島黒神のクロマツ若齢林に生育する樹高1~5mのクロマツ1576本に生息するカミキリを対象とした直接捕獲による標識再捕調査を、2008年5月12日から10月3日まで毎週2回、計36回実施した。その結果、6月3日から9月16日の間にマーク個体313頭(雄115頭、雌198頭)がのべ350回捕獲された。捕獲数は7月に増加し、7月21日にピークを示した(56頭)。再捕は7月14日から9月3日まで見られ、8月には多くの再捕が確認された。7月21日までは、ほとんどがクロマツの当年生枝で捕獲されたが、それ以降、2年生以上の枝で捕獲される個体が増加した。