606
ニホンジカによる樹皮剥皮防止のための間伐材の活用
北岡和彦
(大分林試),
高宮立身
 シカによる樹皮剥ぎ被害は、バークガードなどの防護資材を幹に取り付けることにより防止できるが、コストがかかる。そこで間伐時に大量に発生する枝条や枝付き丸太を立木地際部に寄せ積みすることにより、コストを抑えて樹皮剥ぎ被害を防止できないか検討した。その結果、無処理木には樹皮剥ぎ被害が発生していたのに対し、寄せ積みした立木には被害が発生していなかったことから、枝条などの寄せ積みには被害防止効果があると考えられる。


607
霧島山地えびの高原のアカマツ優占林におけるニホンジカによる樹木剥皮
矢部恒晶
(森林総研九州),
柳田蓉子
 霧島山地のえびの高原周辺のアカマツが優占する森林において、ニホンジカによる樹木剥皮の分布を把握するため、 32カ所のプロットを設定して胸高直径5cm以上の樹木について毎木調査を行った。その結果、メスを中心とした群れが定住している区域では、秋期のみ出現するオス成獣の角擦りによるアカマツの剥皮本数率が高い傾向が認められた。また、現存の広葉樹に対する採食による剥皮本数率は高くなかったが、嗜好性が高い一部の樹種ではすでに剥皮による枯死が進んでいると考えられた。今のところアカマツに剥皮による枯死は少ないと考えられたが、長期的には風倒などのリスクが増す可能性があり、メス群の集中が起きる場所では採食圧の他にオスの社会行動を介した植生への影響も増加することが予想された。


608
森林内での哺乳類の出現頻度の違いと周辺環境の影響
内川宗久
(鹿大院農),
畑 邦彦,
曽根晃一
 近年、個体数の増加しすぎたシカやイノシシによる農林業被害は大きな問題となっている。その一方で、生息環境の変化によって絶滅が危惧される野生動物の保護が求められる地域もある。人間と野生動物との共生を考える上で、野生動物を含め森林を適切に管理していくことが必要となる。しかし、森林内にも様々な環境が存在し、効果的に管理していくには野生動物の要求する環境がどのような場所かを明らかにすることは重要である。そこで今回は、調査地内に生息する哺乳類が林内のどのような場所を好むかあるいは避けるのかを明らかにするため、2008年7月から鹿児島県霧島神宮林内において11台の自動撮影カメラを用いて哺乳類の撮影を行い、出現頻度の違いを調査した。また、カメラ設置場所の植生や車道からの距離などの環境要因を調査した。これらの結果から、周辺環境の違いが出現頻度に与える影響を考察した。


609
霧島えびの高原においてスズタケが実生の生存に与える影響
濱田大輔
(鹿大院農),
畑 邦彦,
曽根晃一
 えびの高原でスズタケ(Sasamorphaborealis)が実生の生存に与える影響を調べるため、設定した調査区(20×20mが2つ、15×20mが1つ)内のスズタケの最大稈高と被覆度、及び樹木の実生の生育状況を記録した。スズタケの平均最大稈高は154.09±103.03cm、平均被覆度は38.96±27.84%であった。2008年11月の調査では10種479個体の実生が生育しており、ツクシイヌツゲが244個体で最も多く、次いでハイノキが120個体であった。調査区はアカマツ、ミズナラが優占する林にも関わらず、それらの実生を発見することはできなかった。調査開始後6ヶ月での実生の消失数は全169個体で、ツクシイヌツゲが103個体、ハイノキが41個体であった。実生の生存に対するスズタケの影響は、被陰といったネガティブなものやシカの採食からの防御といったポジティブなものなどが考えられる。そこで本研究では、実生の生存に対するスズタケの稈高と被覆度及び実生の樹種の影響について考察した。


610
人為改変された島で、現在の種子散布者が植生回復に与える影響
栄村奈緒子
(鹿大院農),
川上和人,
出口智広,
畑 邦彦,
曽根晃一
 小笠原群島聟島は、希少な動植物が多く生息・生育しているが、外来種ヤギによる森林破壊、固有亜種メグロの絶滅、外来種メジロの導入など生態系が大きく改変されている。現在ヤギはほぼ駆除され、植生の回復が期待される一方で、競争力の高い外来植物の分布拡大が危惧されている。島で通年生息する果実食鳥類は外来種メジロと在来種イソヒヨドリのみであり、両種は種子散布者として大きく関与していると考えられる。そこで両鳥類種が現在の植物の分布拡大にどのように影響しているのかを明らかにするために、2008と2009年の2〜5月に両種の糞内容と環境毎(森林、林縁、および開放地)の生息密度と植物分布状況を調査した。これらの結果か ら在来・外来種の鳥類と植物の相関関係について考察する。