616
糞中DNA分析によるシカの食性研究
川副まり子
(九大生資環),
白石 進,
池田浩一
 発表要旨ニホンジカは多種多様な環境に適応して食性を柔軟に変えるため、被害とシカとの関係を理解するにはそれぞれの地域におけるシカの食性に関する知見が必要である。今回は、糞中に残存するDNAを利用して植物種の同定を試みた。調査地は福岡県嘉麻市小野谷の林内、分析対象領域は18SrDNAの3領域とした。シークエンシングの結果、供試した224個のコロニー全てで塩基配列を決定することができた。得られた塩基配列をDDBJと照合した結果、224シークエンス中で195シークエンス(約87%)がデータベースに存在し、これまでの方法では判別できなかった広葉樹を含む10属を検出した。また、シカ糞からの性判別に用いられている山内ら(2000)の分析系を改良し、劣化したDNAへの対応と、より信頼性の高い性判別を可能にした。シカ糞から雌雄を判別して性別による食性の違いを考察したが、大きな違いは見られなかった。


617
草食性動物の糞中DNAからの食性プロファイリング
川邊 縫
(九大農),
川副まり子,
白石 進,
池田浩一
 近年、シカによる食害等の森林への被害が増えている。その対策を講じる上で、シカの生態(特に食性)を知ることが重要である。シカの食性を調べる方法として、糞から植物のDNAを抽出し、クローニングした後、その塩基配列を決定し、食べられた植物を同定する方法(DNAバーコーディング法)がある。この方法では1検体を調査するのに多くの時間と経費を費やし、多検体の分析は難しいことから、食性の大規模な研究には向かない。そこで今回は、より簡便に糞中DNAから食性を調査する方法(食性プロファイリング法)を開発した。この方法は、葉緑体DNA上の遺伝子間スペーサー領域のDNA長多型を利用しており、PCR増幅産物を電気泳動することにより、「1サンプル1泳動」でその食性プロフィール知ることができる。


618
森林性野ネズミにおける貯食活動の特性と貯食者自身による回収
新垣拓也
(鹿大院農),
大石圭太,
中村麻美,
畑 邦彦,
曽根晃一
 日本に広く生息する森林性野ネズミ(アカネズミ)が貯食したドングリの回収状況を明らかにするため、2008年の8月と11月に、鹿児島大学農学部付属高隈演習林のマテバシイが優占する広葉樹林で、小型発信器を装着したマテバシイのドングリで貯食行動を追跡し、貯食されたドングリの回収者を赤外線センサー付きカメラで撮影することで、貯食者と回収者の同定を行った。アカネズミにより貯食されたドングリの貯食者自身による回収率は他個体による盗難率よりも高く、貯食したドングリを回収するまでの期間が延びるほど盗難率が上がる傾向が見られた。この高回収率が、アカネズミにおいて貯食行動が進化・定着することを推進する要因であること、貯食期間の長期化は盗難率を高めることが示唆された。


619
ドングリの生存過程に影響を与える要因 −人工貯食の盗難状況−
中村麻美
(鹿児島連大),
大石圭太,
新垣拓也,
畑 邦彦,
曽根晃一
 種子食性野ネズミの貯食活動は樹木の分布拡大・更新に貢献する可能性があるため、その解明は非常に重要である。しかし、貯食された堅果は貯食者に回収されるだけでなく、貯食者以外に盗難されることが明らかにされている。そのため、堅果の貯食から発芽までのプロセスを解明することは貯食活動の樹木更新に対する貢献度を検討するためにも非常に重要である。鹿児島大学森林保護学研究室では、1996年からマテバシイが優占する常緑広葉樹林内において、毎年11月に2種類の異なる深さでマテバシイ堅果を人工的に貯食し、貯食堅果の盗難率を調査している。今回、1〜数か月、1年間隔で人工貯食のその後の経過を観察し、堅果の盗難状況や残存状況を調査した。その結果、人工貯食された堅果の盗難率や盗難速度は、年や埋土深によって著しく変動していた。


620
シロハラと ヒヨドリにおける種子の体内滞留時間
中川寛子
(鹿大農),
平田令子,
畑 邦彦,
曽根晃一
 果実食性鳥類の種子の体内滞留時間は種子散布距離を決定する重要な要因であると考えられる。シロハラとヒヨドリは鹿児島大学構内における有効な種子散布者であることから、今回、シロハラとヒヨドリにおける体内滞留時間を明らかにするために短期間の飼育実験を行った。2009年3月より、鹿児島大学構内でかすみ網を用いてシロハラとヒヨドリを捕獲し、個別にケージに入れ果実を給餌した。果実の採餌・排泄状況をビデオカメラで撮影し、種子の体内滞留時間を算出した。実験にはシロハラ5羽、ヒヨドリ1羽を用い、シロハラではクロガネモチ、ナワシログミ、カンヒザクラ、バクチノキ、ヒヨドリではソメイヨシノの果実を与えた。その結果、体内滞留時間はシロハラが45秒〜96分、ヒヨドリが17分〜24分となった。また、種子の排出様式には両種で違いがみられた。これらの結果から、種子散布者としての両種の働きについて考察する。


621
アカネズミの体重と繁殖に対する餌条件の効果
大石圭太
(鹿大院農),
中村麻美,
新垣拓也,
畑 邦彦,
曽根晃一
 ドングリ生産量がアカネズミの繁殖に及ぼす影響を明らかにするために、アカネズミの体重変動に注目し、ドングリ生産量とアカネズミの体重変動および繁殖成功の関係を解析した。1997〜2007年において、雄の繁殖可能個体の体重は10月が最も重く、6月が最も軽かった。秋から春にかけて、繁殖兆候を示していた個体の割合(繁殖個体率)が高く、この繁殖期はドングリが地上に存在している時期とほぼ一致していた。繁殖個体率は、体重の約1ヶ月遅れで増加していた。ドングリが地上に落ちて間もない10〜12月では、雄の繁殖可能個体の体重は、餌条件が良いほど増加する傾向にあり、その傾向は10月、11月、12月とより顕著になった。繁殖率も餌条件が良くなるほど高くなった。以上のことから、ドングリ生産量はエネルギーの体内蓄積量を通して、アカネズミの繁殖成功を左右すると推察された。