313
夏季における山地渓畔林の鳥類相 −隣接林分との鳥類相の比較−
平石将太郎
(宮大農),
平田令子,
伊藤 哲,
三枝直樹
山地渓畔林は生物種多様性の維持などの目的で保全の対象とされているが、鳥類に関しては殆ど研究されておらず、山地渓畔林が鳥類の種多様性に貢献しているかは不明である。渓畔林の幅が狭い場合、そこに成立する鳥類群集は隣接する林分の影響を受け、結果として渓畔林と隣接林分との鳥類相に違いは見られないかもしれない。この仮説を検証するため、熊本県内の標高1100mに位置する大野国有林内において、渓畔林とこれに隣接した林分の鳥類相を調査し、比較を行う。調査地内には幅約1mの渓流が流れており、渓畔にはカエデ類など落葉広葉樹が生育し、ミズナラ林やヒノキ人工林がこれに隣接している。調査は2011年8〜9月にかけて行う。ミズナラ林とそれに隣接する渓畔林、及びヒノキ人工林とそれに隣接する渓畔林に各6点観察ポイントを設け、観察範囲内に出現した鳥類の種と個体数を記録する。本発表では、隣接林分の林相の違いの影響についても考察する。

314
暖温帯山地渓畔域における人工林伐採後2年間の広葉樹の更新動態
−草本植物の種群および生育型が実生の定着に及ぼす影響−
安田整樹
(宮大農),
平田令子,
伊藤 哲,
川西基博
渓畔林は様々な撹乱体制に由来する高い生物多様性を有しているため重要な生態系である。演者らはこれまで渓畔林の下層植生を対象にし、自然林の種組成と微地形の関係、これに与える人工林化のインパクトを明らかにしてきた。その結果、針葉樹人工林では一部の草本植物の繁茂による多様性の低下がみられた。また、更新初期における草本植物の繁茂は樹木の実生の生育を制限すると考えられる。そこで、今回の研究では草本植物が樹木の実生に与える影響を明らかにすることを目的として、渓畔に成立する針葉樹人工林の伐採後二年目の林床の植生調査と実生のモニタリング調査を行った。この調査結果をもとに草本植物の種群および生育型の違いが実生の発生数、生残率、枯死率に与える影響について考察する。

315
人工林伐採跡地おけるカシ類堅果の貯食散布に及ぼす枝条残材の影響
伊藤 哲
(宮大農),
高見瑶子,
山川博美,
平田令子,
松永慎平,
木崎巧治,
藤崎 恵.
松田祥平
カシ類の堅果はげっ歯類の貯食行動により二次散布されることが知られている。我々はこれまで、照葉樹林帯の堅果の貯食散布が地表の微環境に大きく依存し、伐採跡地では枝条残材の下に貯食場所が集中する傾向があることを報告してきた。本研究では、伐採地の枝条残材がカシ類堅果の貯食散布に及ぼす影響を実験的に検証することを目的として、宮崎県高岡町の暖温帯渓畔域に成立するスギ人工林の小面積皆伐地で調査を行った。2009年12月に、磁石を挿入したマテバシイ堅果50個ずつを皆伐地および間伐直後の林分にそれぞれ4カ所に設置し、その周辺に量および構成物のサイズの異なる枝条を2m×2mの区画で複数設置した。すべての堅果が消失した後に金属探知機によって探索したところ、多くの堅果が大型の枝とスギリターを含む枝条の下で発見された。この結果に基づき、伐採跡地における枝条の取り扱いが堅果の貯食散布に与える効果ついて考察する。

316
沖縄島におけるヒルギダマシ(Avicennia marina)胎生芽の散布動態と稚樹の定着要因
谷口真吾
(琉大農),
剣持 協,
内浦健斗,
加藤嘉一,
藤田ルツ,
福園幸太郎,
比嘉育子,
今西 剛,
中須賀常雄
マングローブ植物であるクマツヅラ科ヒルギダマシ(Avicennia marina)の自然分布の北限は、沖縄県宮古島とされる。しかしながら、1990年代以降、護岸の保護工、潮間帯の緑化などを目的にヒルギダマシが沖縄島で植栽された。現在では、自然分布域外の沖縄島にヒルギダマシの群落が形成されている。本研究は、沖縄島において、比較的大規模なヒルギダマシ群落に調査プロットを設定し、胎生芽の散布状況や稚樹の更新動態から群落の拡大要因を考察した。その結果、植栽移入されたヒルギダマシはほぼ毎年、一定量の胎生芽を生産した。植栽木の再生産による個体数の増加とともに、植栽域外への定着と群落形成によって分布域の拡大が確認された。胎生芽の散布、あるいは稚樹の定着には、呼吸根の成立密度が強く影響した。つまり、呼吸根密度の高いエリアでは、呼吸根に胎生芽が捕捉、あるいは集積され、稚樹本数が増加する傾向であった。