505
長崎県対馬市におけるカシノナガキクイムシによる枯損被害について
吉本貴久雄
(長崎農林技セ),
本田勝美,
駒井裕治
九州におけるカシノナガキクイムシによるナラ類の集団枯損は南九州での報告が多くなされている。被害報告はないものの、カシノナガキクイムシは潜在的にはもっと広く分布していると言われている。しかし、これまで長崎県におけるカシノナガキクイムシの分布及び被害事例がなかった。今回、長崎県対馬市において、2008年に国有林で、2010年に民有林でカシノナガキクムシによる被害を確認したので、その概要を報告する。

506
2010年に屋久島で発生したカシノナガキクイムシによるマテバシイ・スダジイの集団枯損の記録
後藤秀章
(森林総研九州),
本田勝美,
駒井裕治
2010年に屋久島で発生したカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)によるスダジイ・マテバシイの集団枯損について報告する。カシナガは、ナラ類の集団枯損の原因であるRaffaelea quercivoraの媒介者である。1980年代以降、本州のナラ類を中心とする被害は増大・拡大を続けており、研究もこの地域を中心に行われてきた。一方で九州などのシイ・カシ類の被害については、研究例が少なく、情報が不足している。屋久島では2007-2008年に続いて、記録の上では2度目の集団枯損発生である。被害地域には世界遺産地域を含んでおり、発生時には社会的な注目を集める一方で、被害推移の予測、防除の必要性の判断に必要な情報の不足が問題となった。そこで本発表では、被害規模、被害拡大の可能性など、今後の防除等の対策を立てる上で必要な基本情報を収集する目的で行った調査について、その結果について報告する。

507
培地へのポリエチレングリコール添加がRaffaelea quercivoraの成長に与える影響
高畑義啓
(森林総研九州)
昨年、ブナ科樹木萎凋病菌Raffaelea quercivoraにおいて、ショ糖または塩化カリウムを添加した培地を用い、培地の水ポテンシャル低下によってコロニーの成長が顕著に阻害されるという結果を得た。しかし、いずれの物質もその化学的性質が成長に影響を及ぼした可能性があり、特に塩化カリウムについては薬害の影響による成長阻害の可能性も否定できない。そこで、一般には菌類が代謝できないポリエチレングリコールを添加した培地を用いた実験の結果から、培地水ポテンシャルの低下がR. quercivoraの成長に及ぼす影響について検討する。

508
樹幹注入によるヤシオオオサゾウムシ防除技術の改良
齊藤真由美
(宮崎林技セ)
カナリーヤシへのヤシオオオサゾウムシ防除として,2006年から薬剤の樹幹注入による防除に関する研究を行ってきた。しかし,樹体が大きくなると使用薬剤量が増え,コストが高くなると共に樹体への影響が懸念される。前回,薬剤の削減方法として,注入孔の高さを変える試験を行った。この結果,注入孔を高くすることで薬剤量を削減できる可能性が有ることを報告した。今回は,注入孔の高さと防除効果との関係に加え,梢頭部における薬剤拡散との関係に関する研究を行ったので結果を報告する。

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針広混交天然林におけるプッシュプル法によるヤツバキクイムシ防除の試み
上田明良
(森林総研九州)
ヤツバキクイムシ(以下ヤツバ)は,集中攻撃によってエゾマツ等のトウヒ類を枯死させる。近年,新しい害虫防除法として,害虫の忌避物質を防除対象地に用い,対象地外側に害虫の誘引物質を用いて防除を行うプッシュプル法が注目されている。そこで,北海道の針広混交天然林においてヤツバの忌避剤と集合フェロモンを用いて,プッシュプル法による防除試験を行った。2009年のエゾマツ枯死木数は処理区4本,対照区1本,2010年はそれぞれ0本と1本で,差がなかった。試験区中央に設置したモニタリング用のフェロモントラップによるヤツバ捕獲数にも処理区と対照区で差がなかったことから,プッシュプル法による防除効果は検出できなかった。ヤツバの天敵であるムネアカアリモドキカッコウムシのプル用フェロモントラップによる2010年の捕獲数は2009年の5倍になり,ヤツバの捕獲数5107個体に対し2053個体捕獲され,天敵としての機能が高いと考えられた。