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ニホンジカの出現頻度が異なる場所に植栽したスギ苗木の食害状況
榎木 勉
(九大農),
内海泰弘,
矢部恒晶,
八代田千鶴,
小泉 透,
久保田勝義,
鍛冶清弘,
壁村勇二,
椎葉康喜,
宮島裕子
宮崎県椎葉村に位置する九州大学宮崎演習林において,ニホンジカ(以下,シカとする)の目撃頻度の最も高い場所を中心に半径約3kmの範囲を調査区とし,中心からの距離に応じたシカの出撃頻度および植栽したスギ苗の被食および生育状況の変化を観測した.スギ苗は2010年4月に調査区内の20カ所に20本ずつ植栽した。10ヵ所には自動撮影装置を設置し,シカの出現頻度を記録した.1年間の調査期間中に342本の苗木が食害にあったが、シカの食害により枯死した苗木は15本であった.調査区中心部では苗木は植裁直後に食害を受けるが,周辺部ほど食害率は低下した.調査開始からの時間経過に伴い周辺部の食害率は増加した。植栽直後はシカの出現頻度が大きいところほど苗木の食害率が高くなったが、7月以降はシカの出現頻度と食害率には関係が見られなかった.また、本報告では2011年4月に実施したシカ個体捕獲の影響についても検討する。

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熊本県におけるニホンジカの生息状況の変遷
安田雅俊
(森林総研九州),
近藤洋史
分布や数といった数量的情報を含む,明治初期(19世紀後半)以降の資料に基づき,熊本県におけるニホンジカ(以下,シカ)の生息状況の変遷を検討した.空間分布についてみると,19世紀後半以降約100年間にわたりシカの分布域は一貫して県南部に偏っていたが,1980年代以降に県北東部にまで広がった.年間捕獲数についてみると,19世紀後半の約150頭から,1950年代には11頭に減少した後,1970年代前半約100頭,1990年代前半約1200頭,2000年代半ば約12000頭と顕著に増加した.推定個体数についてみると,県全体で1960年代には100頭程度とされていたが,1995-1996年9400-15400頭,2001-2002年約48000頭,2006年約45000頭,2009年約27000頭と推移した.近年問題となっているシカの分布拡大と増加による農林業被害の増大は極めて現代的な現象と言える.

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熊本県におけるニホンジカの生息密度と捕獲頭数の空間分布
前田勇平
(熊本県林研指)
近年、ニホンジカの生息数の増加や分布域の拡大により、中山間地域では立木の剥皮害及び採食害等多くの経済的被害を受けている。このような中、熊本県では様々な対策を講じており、その結果シカ生息密度は減少傾向にある。しかし、狩猟者はその多くが高齢者であり減少傾向が続いていることからも、今後はより効率的な捕獲体制が求められることが予想されるが、その構築に資する基礎的情報は非常に少ない。そこで、本研究では熊本県内における過去のニホンジカ捕獲頭数及び生息密度の空間分布を明らかにするとともに、これまでの捕獲効率について明らかにすることを目的とする。

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霧島えびの高原における高木性樹種実生の生存に対するニホンジカの影響
M田大輔
(鹿大農)
近年、霧島えびの高原ではシカの個体数増加に伴い、自然植生への影響が深刻化している。特に、高原内に優占するアカマツやミズナラなどといった高木性樹種の消失は、林相を劇的に変化させることが考えられ、これらの実生や稚樹に対するニホンジカの影響を調べることは、高原内の植生の管理・保護を行う上で重要である。そこで、本研究ではこれら高木性樹種の当年性実生に焦点を置き、その生存に対するホンジカの影響を解明する。また、実生の採食といった直接的な影響のみだけではく、林床や上層の状態といった環境要因の影響を調べることよって、実生に対するニホンジカの複合的な影響を明らかにする。