801
林地転用発生地点判別モデルの精度向上に関する研究
池内 学 
(九大生資環),
村上拓彦
1990年代後半より,九州地方では再造林放棄の問題が顕在化している。この問題解決の過程で派生的に確認された事実として,林地転用が多数発生していることが報告されており、この林地転用の実態把握に深く係わるARDのDeforestation(森林減少)が重要となる。衛星画像から森林変化点を抽出し,判別モデルを用いて転用地の発生状況を把握する手法を確立できれば,今後のARD活動の監視において,調査時間の短縮,低コスト,低労力な手法として有用になる。これまで抽出伐採地の面積と森林境界からの距離に着目した判別モデルは存在するが,それ以外の因子は未だ検討されていない。本研究では上記以外の地形因子も考察した林地転用発生地点判別モデルを構築し,精度向上を目的とした。その結果,標準編回帰係数の絶対値から,標高の値が小さくなるにつれて転用地になる可能性が高まることが示唆された。これらの因子を組み入れた結果,既存の研究に比べて精度が約16%向上した。

802
暖温帯小流域渓流における落葉の滞留様式
原口正平 
(宮大農),
高木正博
森林生態系において落葉落枝は有機物の供給源として大きな役割を果たしている。特に渓流へ供給される落葉は渓流生態系の主なエネルギー源となっている。この現象を理解するうえで渓流内へ流入する落葉を定量的に把握することは重要である。しかし、暖温帯の渓流において落葉の流入量、滞留量、流出量を調査した例はみあたらない。落葉落枝が流入する経路は、渓流上の樹冠から流入する直接落下と岸から流入する側方移入の二つがある。また流路は瀬と淵で構成されており、この両者で落葉の滞留様式は異なると考えられる。そこで今回の調査では2010年9月〜2011年8月の1年間にわたり直接落下量、側方移入量、滞留量、流出量を測定した。これらに影響を与えている要素として風速、および流量を取り上げて関係性を検討した。

803
近赤外分光分析法による倒木のリグニン・ホロセルロースの定量について
石塚成宏 
(森林総研九州),
酒井佳美,
田中(小田)あゆみ
樹木の木部はいろいろな成分から構成されているが、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが主成分である。これらは枯死後に様々な微生物によって分解されるが、それぞれの分解抵抗性は異なっている。そのため、成分ごとに分解速度を明らかにすることで、より精度の高い分解モデルが構築できると考えられる。従来、これらの成分の定量は煩雑で時間がかかるため、大量の試料を分析するのは大変であった。本研究では倒木に対して適用可能な近赤外分光分析法によるリグニン・ホロセルロース(セルロース+ヘミセルロース)の定量法を開発したので報告する。

804
ポーラスプレート・テンションライシメータ法による森林土壌中の水および溶存無機窒素移動量測定
釣田竜也 
(森林総研九州),
大貫靖浩,
壁谷直記
近年、人為起源の窒素排出量が増大傾向にあり、これが森林生態系の健全な養分循環を妨げることが懸念されている。大気からの窒素負荷に対する森林生態系の応答を評価するには、森林土壌中での窒素移動量を明らかにする必要がある。演者らは、降水と渓流水の長期観測を行っている熊本県北部の鹿北流域験地内の森林土壌に新たにポーラスプレート・テンションライシメータ法(PPTL法)を適用し、下層土壌中の水および溶存無機窒素移動量の測定を試みた。PPTL法は吸引圧を自然土壌の水分状態に基づいて週1回手動で調整しながら採水することにより、下方浸透する水移動量を測定する手法である。本発表では、まずPPTL法の有効性を検討するため、得られた土壌水の年間移動量を試験流域の水収支と比較する。さらに土壌中での年間無機態窒素移動量を算出し、流域の無機態窒素流入・流出量と合わせて、対象試験地の森林生態系における窒素の流出過程について検討する。