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特定外来生物クリハラリスの分布拡大がもたらす森林被害
安田雅俊(森林総研九州)
九州には既知の外来リス類の生息地が少なくとも5ヵ所(長崎県壱岐、福江島および島原半島、熊本県宇土半島、大分県高島)あり、すべてクリハラリス(別名タイワンリス)である。本種は生態系や農林業に大きな影響を及ぼすことから、外来生物法の特定外来生物に指定されている。熊本県宇土半島では、2009年度は有害鳥獣捕獲、2010年度以降は捕獲報奨金制度(1頭800円)により地元の猟友会や生産者が捕獲を行ってきたが、2011-12年度は環境省地域生物多様性保全活動支援事業で雇用された捕獲専門チームも防除活動に加わっている。これまでに約5000頭が捕獲され、分布の中心部においてはリスの生息密度が大きく低下したが、分布の拡大は抑制されていない。今後、宇土半島から逸出した場合には、九州本島の森林や果樹園に大きな被害を及ぼすことが懸念される。それを未然に防止するためには早急に十分な対策が必要である。

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絶滅危惧種ノグチゲラによるハンノキ枯死木の営巣利用:沖縄島へのタイワンハムシの侵入とハンノキ大量枯死の影響について
小高信彦(森林総研九州)
2010年に沖縄島で初確認された外来昆虫タイワンハムシの侵入後、絶滅危惧種ノグチゲラの生息地である沖縄島北部やんばる地域では、ハンノキ(台湾から100年以上前に導入された外来種)の枯死木が大量に発生している。ハンノキ枯死木をモニタリングした結果、2012年3月〜6月に8例ノグチゲラの造巣活動を観察した。このうち4例で巣立ち、2例で水没による繁殖失敗、2例で造巣中の放棄を確認した。営巣利用されたハンノキ枯死木を中心とした0.04haの円プロット内に出現したハンノキ(DBH15cm以上)74本の枯死状況を調査した結果、枯死72本(営巣木8本を含む)、生存2本、枯死率は97.3%であった。タイワンハムシ侵入初期の2012年繁殖期、ハンノキ枯死木はノグチゲラの営巣資源として有効に機能していると考えられた。しかし、ハンノキの枯死率は非常に高く、営巣可能なハンノキは、今後急速に減少すると考えられた。

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ホンドタヌキとニホンアナグマのため糞場の特性とそこを利用する動物
大石圭太(鹿大院農),熊原典之,
畑 邦彦,
曽根晃一
ホンドタヌキとニホンアナグマが形成するため糞場には実生群が形成されるため、彼らは種子の二次散布者となりうるが、実生が定着する可能性は、ため糞場の環境に左右される。そこで、25haの森林内で彼らのため糞場の捜索及びその立地条件と植生調査を行った。また、一か所に多量の糞と種子が存在するため糞場は糞虫や野ネズミなどの種子食性動物に餌資源として利用され、野ネズミにより種子が「三次分散」される可能性がある。そこで、ため糞場の餌資源としての利用可能性を検討するため、種子を詰めた新鮮なタヌキの糞を人工ため糞場に設置して、訪れる動物を目視や赤外線センサー付きカメラで観察した。その結果、立木密度が低く、林床の光環境が悪くなく、実生が定着しやすい尾根部にため糞場は多く、タヌキとアナグマが種子の二次散布者となりうること、糞虫による糞の分解が野ネズミによる種子の採食と運搬を促していることが明らかとなった。