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誘引狙撃によるニホンジカの個体数管理がスギ苗木の生育に及ぼす影響
榎木 勉(九大農),内海泰弘,矢部恒晶,八代田千鶴,小泉 透,久保田勝義,鍛冶清弘,壁村勇二,椎葉康喜,南木大祐,長 慶一郎,山内康平 宮崎県椎葉村に位置する九州大学宮崎演習林において、ニホンジカ(以下、シカとする)の目撃頻度の最も高い場所を中心に半径約3kmの範囲を調査区とし、中心からの距離に応じたシカの出撃頻度と植栽したスギ苗の被食および生育状況の変化を観測した。スギ苗は2010年4月に調査区内の20カ所に20本ずつ植栽した。10ヵ所には自動撮影装置を設置し、シカの出現頻度を記録した。1年間の観測の後、2011年4月にスギ苗を改植した。同年4、6、10月に個体数管理のため誘引狙撃法により11頭のシカを捕獲した。個体数管理を実施した2011年度はスギ苗の食害が調査区全域で減少し、シカの撮影頻度も調査区中心部では低いまま維持された。2012年4月にも改植し、個体数管理の効果の持続性を検討した。食害率は11月までは比較的低い値を維持したが、冬季以降は増加し、翌年3月ではシカ捕獲前年の同時期と同程度であった。

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クヌギ萌芽更新におけるシカ被害防除技術に関する研究(U)
北岡和彦(大分農林研) 近年、シイタケ原木伐採後のクヌギやコナラの萌芽枝に対してシカによる食害が増加している。萌芽枝は成長が早く、スギやヒノキの苗を新植した場合に比べて、防除する期間は短くて良い。造林用のシカネット等ではコストや労力がかかり過ぎることから、萌芽枝に適した防除方法の確立が求められる。防除試験については、昨年報告したが、その後の経過報告とあわせて株の耐久性や食害年数と防除後の萌芽枝の成長との関係について報告する。株の耐久性については、2年続けてシカの食害を受けると生存率が半減していた。1年間食害を受けた後に防除した場合と2年間食害を受けた後に防除した場合の萌芽枝の成長量に差はみられなかった。食害を受けてから防除を行なっても萌芽枝の成長に影響はないが、株数を維持するには、2年以内に防除するのが望ましいと考えられた。

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えびの高原における高木性樹種実生の発生に対する林床環境の影響
M田大輔(鹿大連農),曽根晃一,畑 邦彦 近年、ニホンジカ(以下、シカ)による森林植生や生態系への影響が報告されている中、霧島錦江湾国立公園に属するえびの高原においても植生被害が顕著に表れている。えびの高原は落葉広葉樹林帯に属するが、アカマツ林やモミ・ツガ林も見られ、アカマツ−ミズナラ林といった遷移途中の林分も存在している。高原内には防鹿柵が各所に設置されており、採食圧が排除された柵内の林床環境は柵外と比較すると非常に異なっていると考えられ、林床環境の変化が上記のような林冠樹種を含む高木性樹種実生の発生に影響を持つことが推測される。そこで本研究は、高原内に設置されている防鹿柵を利用し、柵内外で実生の発生数と林床環境を調査し、高木性樹種実生の発生数に対する林床環境の影響を評価した。
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広葉樹の形態を利用したニホンジカによる採食圧指標の検討(II)
矢部恒晶(森林総研九州) 近年シカによる森林や林業へのインパクトを植生から予測する手法が開発されているが、これまでの方法は主に本州以北の落葉広葉樹林地域で考案され、シカによる影響の指標を得るために比較的大規模な植生調査を行うものが多く、常緑広葉樹林地域にも適用でき、林業者が簡易に利用できる指標はまだ少ないのが現状である。そこで九州で普通にみられる樹種の形態に着目し、シカ採食圧を反映する簡易指標の検討を行ってきた。前回のイヌツゲに引き続き、常緑広葉樹林帯から落葉広葉樹林帯までの植生を含む霧島山地において広域分布し、シカによる採食が認められるコガクウツギを選択し、シカ密度と樹木の形態について調査したところ、シカ密度が異なると考えられる地区では短枝化した樹形の割合などに違いが見られた。

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間伐施業がアカネズミとヒメネズミの生息状況に及ぼす影響
大石圭太(鹿大連農),水田裕一,畑 邦彦,曽根晃一 日本の多くの森林に同所的に生息するアカネズミ(以下、アカ)とヒメネズミ(以下、ヒメ)は、貯食行動を通して、ブナ科の堅果の分散に貢献する。そのため、林野庁により推進されている針葉樹人工林の育成複層林化や広葉樹林化に対する間伐の効果を評価するためには、間伐施業が野ネズミの生息状況に及ぼす影響を明らかにすることも重要である。そこで本研究では、2009年12月よりアカとヒメの標識再捕調査、2012年4月より小型発信機を用いたラジオテレメトリー法による追跡調査を継続している林分(53年生のスギ人工林とその周辺の広葉樹林および針広混交林で構成)の一部(スギ人工林)で、2012年9月に約30%の間伐を実施し、その前後でアカとヒメの生息状況を比較した。その結果、間伐は、施業直後にはアカとヒメに対して著しい影響を及ぼすが、その効果は一時的で、数ヶ月後には個体数が回復し始めることが明らかとなった。