401
樹木クロロフィル量と幹光合成について
高之口花奈
(九大農)、玉泉幸一郎
植物は葉以外の器官にもクロロフィルを持っている。中でも樹皮は高いクロロフィル濃度を示し、幹の呼吸によって発生する炭酸ガスを光合成によって再固定することが報告されている。しかし、この幹光合成の果たす生態学的意義についてはよく理解されていない。本研究においては、樹種ごとの幹樹皮中のクロロフィル濃度を明らかにするため、九大箱崎キャンパス内およそ40種の樹木の樹皮及び葉のクロロフィル濃度を葉緑素計によって計測した。さらに、測定に用いた樹種の中でクロロフィルの高い樹と低い樹を3種ずつ選抜し、幹光合成を室内で測定した。結果として幹樹皮のクロロフィル量には種間で最大3倍もの違いが認められたが、落葉性と常緑性、分類学上の科や属、高木性と低木性などの間には差は認められなかった。また、幹光合成測定ではクロロフィル量と対応した光合成能が測定された。

402
庇陰による光合成抑制がスギの肥大、伸長成長フェノロジーに及ぼす影響
山田 剛
(九大院生資環)、玉泉幸一郎
これまでのスギフェノロジーの研究から、スギの肥大成長は春期に2回の成長期を持ち、1回目は貯蔵物質に依存した成長、2回目は当年の光合成産物に依存した成長であると考えられた。この場合、もし当年の光合成が抑制されれば、スギの肥大成長は1回目の成長しか見られないと予想される。そこで、本研究では肥大成長の開始直前に庇陰処理を行い、その影響を明らかにすることを目的とした。8年生スギ8本を供試した。2016年2月から8月の間、4本に庇陰処理を行い、幹の肥大成長を比較した。その結果、対照木の肥大成長には2回のピークが見られたが、庇陰処理木では1回しか見られなかった。このことから、1回目の成長期が貯蔵物質に依存していたことが確認された。しかし、この時期の庇陰処理木の成長量は対照木よりもかなり低かった。これは、スギの1回目のピークにおいては貯蔵物質だけでなく、当年の光合成産物も利用されていたためであると考えられた。

403
スギの主軸伸長成長に及ぼす庇陰処理の影響
岡田鈴実
(九大院生資環)、玉泉幸一郎
スギ主軸の日伸長量は日積算光量と正の相関があり、日積算光量が多かった翌日には日伸長量が増加し、少なかった翌日には日伸長量が低下するという現象が認められた。これは、スギの伸長成長には前日の光合成産物が利用されていることを示している。そこで、本研究においては、庇陰処理によって光合成を大きく抑制させることで、スギ主軸の伸長成長に対する前日の光合成産物の貢献度を明らかにすることを目的とした。鉢植えの3年生スギ苗の8本を透明な屋根によって雨水を遮断した場所に置き、それらの伸長成長を自動カメラで連続撮影した 。2016年5月26日から5月31日 まで、4本に庇陰処理を行い対照木と比較した。その結果、庇陰処理による伸長成長の低下は処理当日から起きたが、低下量は処理1日目よりも処理2日目の低下が大きかった。よって、スギの伸長成長は前日と当日の光合成産物両方に依存していることが裏付けられた。