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九州地域のマツノザイセンチュウのミトコンドリアゲノム変異の評価と集団遺伝学的解析
張 涵泳
(九大農学院)、 沖井英理香、 白石 進
マツノザイセンチュウは世界的な森林病害であるマツ材線虫病の病原体である。マツノザイセンチュウの伝播には多数の要因が関与し、複雑な遺伝的集団構造を形成している。その解明には、より詳細な集団遺伝学的解析が必要である。ミトコンドリアDNAは環状DNAであることから、組み換えが起こらず、進化速度が遅く、母性遺伝するなど、核ゲノム情報とは異なる研究上のメリットを持っている。このため、分子情報としての利用には核とは別の意義がある。さらに、ミトコンドリアゲノムの全変異サイトは一つのハプロタイプとして遺伝するため、ハプロタイプ分析によって詳細な遺伝情報を得ることが可能であるために、マツノザイセンチュウの集団解析に有効な手法と考える。本研究はミトコンドリアDNAの変異を調査し、九州地域におけるマツノザイセンチュが保有している多様性を評価するとともに、集団遺伝学的構造を解明する。

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マツノザイセンチュウisolate間における温度感受性の違いと地理的関係性
小林 玄
(九大生資環)、松永孝治、田村美帆、渡辺敦史
北米を原産とするマツノザイセンチュウが日本に侵入してから約100年が経過した。近年では、被害報告の少ない高緯度・高標高地域にも拡大し、青森県までも存在が確認されている。定着に成功した外来種の中には、数十世代で新たな環境に適応し、原産地と異なる特性が報告されている。特に本種は変温動物であり、行動の多くが温度の制限を受けるため、温度が拡大過程で選択圧として働いている可能性が考えられる。そこで、全国から単離された16系統に対して数段階の培養温度を設定し、増殖率について温度との変化曲線を求めることで温度感受性の相違を検討した。その結果、系統間には温度感受性の相違が認められ、特に九州地域で単離された線虫では、変化曲線が他の地域よりも高温域にシフトしている結果を示した。このことから、侵入地である日本国内において本種に対し温度が選択圧の一つとして働いている可能性が示唆された。

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10月、4月に樹幹注入した松枯れ予防薬剤の樹体内の拡散状況
楢﨑康二
(福岡県農林試資源セ)、鶴崎 幸
松くい虫被害の防除方法の1つとして、健全なマツの樹幹に松枯れ予防効果のある薬剤を注入する方法(樹幹注入)がある。しかし、樹幹注入したにもかかわらずマツが枯損する事例が発生し、その原因として薬剤の樹冠部への不拡散、注入時期の不適などが指摘されている。そこで、本研究では樹幹注入薬剤の効果的な施工時期を明らかにすることを目的とし、10月と4月に樹幹注入を施工し、薬剤の樹体内の拡散状況を調査した。その結果、10月、4月注入ともに5月中には樹冠全体に拡散していることが確認されたため、樹幹注入の時期は15m程度の樹高までであれば、3月中に施工すれば効果に問題がないことが明らかとなった。 "

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サザンカにおける輪紋葉枯病の接種方法の検討
奥田絢子
(鹿大院農)、曽根晃一、畑 邦彦
近年鹿児島県下で激害の見られる輪紋葉枯病の発生条件を探る基礎として、接種実験の簡易な方法を検討した。接種実験は野外と室内で行った。接種はサザンカの葉に行い、接種源として病斑上に形成される微小な菌糸塊(以下、菌体)または罹病葉片を用いた。接種はセロハンテープで接種源を生葉に貼り付けることによって行なった。野外実験は鹿児島大学農学部附属高隈演習林で行なった。室内実験ではサザンカの切り枝と摘葉した葉を用い、摘葉した葉はシャーレ内で水分条件を変えて実験を行なった。野外実験、室内実験のどちらでも罹病葉片の接種では発病は見られず、菌体の接種でのみ発病が見られた。野外実験では、接種直後1週間以内に降雨がない時は発病が少なかった。発病した葉の大半で病斑の急激な拡大と落葉が見られた。室内実験では、切り枝や水分が少ないシャーレ内では発病がほぼ見られず、明確な発病は十分な水分があるシャーレ内でのみ見られた。 "