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平成28年熊本地震の林業・木材産業への影響
横田康裕
(森林総研九州)
平成28年4月に発生した平成28年熊本地震は、震度7の地震が連続して発生した初めての事例であり、その後も大規模な余震が継続し、発生回数・発生期間とも観測史上最多・最長とされている。本地震により、九州一円の広範な地域で森林・林業に大きな被害が発生し、林野庁(2016)によると被害総額は395億円に達している。本地震の林業・木材産業への影響の全体像を把握するべく、林業・木材産業関連の業界誌・新聞および行政のウェブサイトに掲載された情報を分析した。対象範囲は主として熊本県内とした。素材生産部門・流通部門・木材加工部門とも、一時的には影響がでたものの、4月末までにほぼ復旧していた。夏までは建築業界が復旧対応におわれていたため需要が伸びなかったが、復興需要が始まると活発化していた。住宅部門においては、木造建物の耐震性に関する調査分析が活発に行われ、県産材を用いた仮設住宅や復興モデル住宅の提案などが取り組まれていた。

110 平成29年7月九州北部豪雨に伴う流木被害とその対策に関する言説の整理
佐藤宣子
(九大農)、尾分達也、笹田敬太郎
2017年7月九州北部豪雨は甚大な被害を筑後川流域にもたらした。多数の山腹崩壊が発生し、土砂に加えて、流木が多量に流下して被害を拡大したため、流木被害発生の要因や対策に関して被害発生直後から様々な言説が発表、報道されている。豪雨災害の頻発が予想される中で、被害の検証と必要な森林管理や施業、有効な施策を検討することが求められている。本報告では、災害発生後に発表、報道された言説を収集し、科学的検証の必要性と未検証ではあっても講ずべき予防的措置、合意形成が必要だと思われる事項などの整理を試みる。

111 森林環境税に関する委員会における住民参加あるいは納税者意向反映の実態と改善案
岸本直也
(長大環境)、太田貴大
森林環境税を導入した県の多くでは、その検討過程において制度に県民の意向を反映するための方法を検討するための委員会を、また税収使途や、その効果、制度の存続可否を評価するための委員会を設置してきた。しかし、税の認知度の低さや、納税者の受益に注目した評価視点の不足等を鑑みると、県民の参加が十分に達成されているとは言いがたい。本発表の目的は、既存事例の中でも県民の意向が比較的よく反映されているといわれている委員会を基準に、九州内の各自治体の委員会を比較しながら、森林環境税の運用に果たした役割と課題を明らかにすることである。調査は、公開されている委員会の議事録等の資料の分析を中心に実施し、自治体の担当部署への聞き取り調査等で補足した。これらの結果をもとに、九州内の関連する委員会が、より県民の意向を反映した税制の実現に貢献できるような、改善案を議論したい。

112 水に関する生態系サービス供給量と住民の意識調査結果の統合分析:生態系サービス支払制度で整備された瑞梅寺川上流域の森林を対象として
太田貴大
(長大環境)、児島利治、橋本啓史、竹島喜芳
森林の多面的機能を維持するための税制度や課金制度は、参加型制度ともよばれており、制度目的の理解や収入利用による多面的機能の受益実感が、支払者に共有されていることが望まれる。これには、支払者かつ多面的機能の受益者である人々の制度に関する知識や受益の実感について実態を把握する必要がある。そして、この受益実感と実際の受益量が高い相関を示していれば、制度理解も得やすいと考えられる。本発表では、瑞梅寺川流域を中心に福岡県糸島市(旧前原市)、福岡市西区で実施した意識調査の結果と、瑞梅寺ダム流域で構築した分布型流出モデルのシミュレーション結果とを組み合わせて、上記について分析する。この結果から、住民に対してどのような働きかけを行えば、制度の理解や受益の実感につながるかを考察する。