810
2017年九州北部豪雨災害における森林の状態・管理の影響評価
井上晴香
(九大生資環)
太田徹志
志水克人
溝上展也
 2017年九州北部豪雨災害では、記録的豪雨により福岡県と大分県にまたがる範囲で山腹崩壊や流木による甚大な被害が生じた。これにより、森林の状態や森林管理に対し、様々な意見が寄せられ、森林管理のあり方が改めて問われている。報告者らはこれまでの研究で、山腹崩壊に働いた要因は樹種の影響よりも降水量や地形による影響が大きいという結果を得ている。しかしながら、この解析では間伐の影響や地上部のバイオマス重量など、山腹崩壊に影響しうる森林の因子を十分に考慮することができていない。そこで本研究では、山腹崩壊に影響を与えうる複数の要因を統一的に取り扱い、森林の状態や森林施業が山腹崩壊に与える影響を評価し、報告する予定である。


811
綾町国有林における過去の森林利用と森林景観の変遷
豊岡早智
(宮大農)
光田 靖
下村ゆかり
 かつて綾町の国有林では天然林資源を活用した木材生産が盛んであり、林内に集落があり、森林軌道が設置され、製材工場が稼働していたほどであった。しかし、林業活動の低下と共に集落は消滅し、現在ではその痕跡がわずかに残る程度である。当時は森林と人々の生活が密接に関連しており、その森林利用形態を知ることは伝統的な森林知識を集積し、将来に伝承する上で重要である。そこで本研究では1947年撮影の航空写真からオルソフォトを作成し、綾町の多古羅川を中心とした地域について、インタビューと現地踏査から、どのような森林利用がどのような場所で行われてきたのかを明らかにする。また、平成25年までの時系列オルソフォトを作成し、森林景観がどのように変化してきたのかを明らかにする。


812
世界自然遺産推薦地「沖縄島北部」における絶滅危惧種オキナワトゲネズミの分布回復に配慮した森林管理計画
小高信彦
(森林総研九州)
安田雅俊
島田卓哉
阿部 真
宮本麻子
高橋與明
八木橋 勉
高嶋敦史
谷口真吾
東江賢次
寺園隆一
 オキナワトゲネズミは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでCRにランクされている世界で最も絶滅が危惧される哺乳類の1種である。日本政府は2019年2月、本種の生息地である沖縄島北部を含む「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産の登録を目指し、ユネスコに推薦書を提出した。沖縄島北部の森林は、推薦書では厳正な保護を行う遺産推薦地(コア)、保全と利用の調整を行う緩衝地帯(バッファー)、そして、様々な人間活動が行われる周辺管理地域の三つに区分されている。古くから人が生活する沖縄島北部の森林では、厳正な保護が求められる推薦地を十分な面積で確保することが困難で、遺産価値を保全するためには、推薦地だけではなく、緩衝地帯や周辺管理地域と一体となった管理計画の立案が重要である。本発表では、オキナワトゲネズミの分布回復に配慮した順応的な森林管理について提案し議論することを目的とする。