保護

701 樹木群集の標高に沿った種多様性パターンとそれに及ぼす微地形の影響ー九州大学宮崎演習林全域植生調査データを利用してー
◯明坂将希(九大院農),菱 拓雄, 榎木 勉 これまで,標高に沿った樹種の分布や種多様性のパターンは多く研究されてきた。一方で,より小さいスケールでは,樹種の分布は特定の微地形に対する選好性をもつことが示されている。本研究では,標高に沿った種多様性パターンに微地形が影響している可能性を調べた。調査は九州大学宮崎演習林内の125地点において行われ,樹木種数,標高,斜面傾斜角,曲率(地形の凹凸)を記録した。標高および微地形が種多様性に及ぼす影響を明らかにするため,各環境傾度に沿ったα多様度,β多様度,γ多様度の変化を解析した。標高が高いほどα多様度は減少し,標高のばらつきが大きいほどβおよびγ多様度は増加した。微地形については,斜面傾斜角が大きいほどα多様度は増加,β多様度は減少し,地形が凸状であるほどα多様度は増加,βおよびγ多様度は減少した。本発表では,微地形が樹木群集の種多様性に与える影響の,標高に対する相対的な重要性を考察する。

702 徳之島における侵略的外来種オウゴンカズラの再生能力
石川佳芳(鹿大農), 鵜川信 徳之島には絶滅危惧種や固有種が多く存在する。しかし,近年,侵略的外来種の侵入によりこれら固有種の存続に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。これを受けて,鹿児島県では生態系被害の防止に関する条例が制定され,指定外来動植物に14種が指定された。指定外来動植物の1つであるオウゴンカズラは,ソロモン諸島原産の多年生つる植物で,園芸用として持ち込まれたものが野生化,巨大化し,他の植物を被覆する。現在,徳之島ではオウゴンカズラの駆除事業が展開されているが,除去時に残された植物体が再生すれば駆除の作業が無駄になってしまう。そこで,本研究では,除去後に残されたオウゴンカズラのサイズとその生残,再生の関係を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するため,徳之島の3地点において,野生化したオウゴンカズラを対象に,葉,蔓,根の3種類の複合器官を組み合わせた10処理を施し,その経過観察を行った。

703 吹上浜海岸クロマツ林における林床環境の違いが地上性の真菌類の子実体発生に与える影響
〇畑邦彦(鹿大農), 内村瑞穂, 榮村奈緒子 吹上浜の海岸クロマツ林でかつて地元住民に親しまれたショウロは,近年発生数が激減している。そこで,2018年度の冬に,地元公民館が中心となり,林床を除去して砂地を露出した,ショウロ再生のための試験区が設置された。本研究では,その試験区(以下除去区)及び隣接するクロマツ林分(対照区)を利用し,林床環境の違いが地上性の真菌類の子実体発生に与える影響と,子実体発生の季節変化について調査を行った。調査は2019年3月~2020年1月にかけて計27回,地上に発生する子実体を探索した。その結果,除去区では菌根菌が6種,腐生菌が2種,対照区では菌根菌が21種,腐生菌が14種発生し,除去区では発生種数が激減していることが明らかとなった。子実体の発生種数は7月~8月前半には両区合計0~2種と少なく,3~6月と8月後半~11月中旬は4種前後であったが,11月末以降急増し,1月まで10種程度が発生し続けた。

704 鹿児島県における新種ヨコバイによるサカキ白点被害の発生状況ー白点被害発生の境界地域における詳細調査ー
〇米森正悟(鹿児島森技セ),川口エリ子,河内眞子,片野田逸朗 近年,本県においてサカキの成葉に白点被害が確認されている。白点被害の原因は,新種のヨコバイ(Stictotettix cleyerae)によるもので,被害の実態や生態などが明らかになりつつある。演者らは,鹿児島県本土における白点被害の発生状況の調査をこれまで行ってきた。その結果,白点被害の発生は地域的にまとまっており,被害の有る地域と無い地域に区分された。今後,被害の無い地域への拡大を防止するためには,境界となる地域の詳細調査を行い,モニタリングを行うことが重要である。  そこで,白点被害発生の境界地域において被害状況を調査したので,その結果を報告する。

705 マツノマダラカミキリの幼虫から成虫までの体重の推移
〇吉田成章 2019年6月20日産卵の幼虫が産卵痕から虫糞を出し始めた7月1日に体重測定を開始し,25℃で12月7日まで,15℃で3か月暴露し,3月9日に25℃に戻した(定温区)。6月25,26日産卵の幼虫を室内で飼育し7月31日に測定を開始した(室温区)。それぞれ15頭ずつ供したが途中事故等で死亡し,定温区で7頭,室温区で9頭が成虫になった。マツ樹皮摂食中は脱皮前後で停滞がみられた。摂食終了後急速に減少し,その後徐々に減少し12月から2月にほぼ横ばいとなった。この時の最小値は室温区で摂食終了時の82%,定温区で61%で違いがみられた。その後,室温区のすべての個体で増加が認められ17%増加する個体もあった。蛹化前にかなり急速に減少し,蛹化時には室温区,定温区とも摂食終了時の60%であった。蛹期間には変化はなく,羽化時に蛹の93%となった。摂食しないはずの2月から3月に体重の増加すること,室温と定温飼育で経過が異なることは興味深い知見である。

706 植栽1年目のスギでみられたアワノメイガによる穿孔被害
〇川口エリ子(鹿森技セ),米森正悟,坂巻祥孝 鹿児島県湧水町のスギ新植地において,主軸の折損被害が発生した。折損部分には蛾類と思われる穿孔がみられ,穿孔は植栽木の約6割で発生していた。その後の調査で,穿孔部分で幼虫を発見し,持ち帰り羽化した成虫からアワノメイガと同定した。アワノメイガはトウモロコシ等の害虫として知られているが,スギへの穿孔被害はこれまでに報告がないことから,今回みられた被害形態等について報告する。

707 ヤマガラとシジュウカラによるアカメガシワ種子の採食行動
〇平尾多聞(宮大農),平田令子,伊藤 哲 アカメガシワは乾果であり成熟後は果皮が裂開して種子を露出させるが,佐藤,酒井(2005)の野外観察結果からはヤマガラが種子を丸飲みし,周食型の種子散布を行うことが示された。周食型種子散布では種子の散布距離は鳥類の体内での滞留時間により影響されるが,乾果での測定例は少ない。そこで,アカメガシワ種子の体内滞留時間を測定するために実験を行った。2019年9月にカスミ網を用いてヤマガラとシジュウカラを捕獲し,アカメガシワの果序を与える実験を行った。実験したヤマガラとシジュウカラはアカメガシワ種子を丸飲みせず外種皮のみを食べ,残りを捨てているのが観察された。これは,既往研究とは異なる結果であり,これらの2種類の採食行動は,アカメガシワの種子散布距離にも影響すると考えられた。本発表では,野外でのアカメガシワの採食行動も観察し,1回の来訪あたりの採食種子数や丸飲みしない行動の観察頻度についても合わせて報告する。

708 大隅諸島竹島の鳥類調査と外来種イエネコの糞分析
〇榮村奈緒子(鹿大農),繁昌慶,村中智明 大隅諸島に位置する竹島は,島の大部分がリュウキュウチクに覆われている面積4.2 km2の小さな有人島である。この島の鳥類に関する資料は少なく,30年以上調査が行われていない。また,この島では鳥類の捕食者となる外来種のイエネコが少なくとも江戸時代後期から導入されている。そこで本研究では2019年の5月(繁殖期),8月(換羽期),12月(越冬期)に竹島に滞在して,ラインセンサスから鳥類の生息状況を,イエネコの糞分析から鳥類の捕食状況を明らかにした。その結果。合計7目19科37種の鳥類が観察され,このうち11種は竹島で新たに観察された種であった。鳥類群集は調査した各月で異なること,留鳥として生息する種は過去の記録と異なることが明らかになった。イエネコによる鳥類の捕食は,ラインセンサスで鳥類の合計出現数が最も多かった12月に確認された.

709 スギ造林地で発生したノウサギによる被害状況について
井上万希 宮崎県内のスギ植栽地において,ノウサギによる側枝や主軸の食害が発生し,植栽木の約9割が被害にあった。県内においてこのような事例は近年報告されておらず,今後被害が増加することが懸念される。このため,防除方法について検討する必要があることから,まずは被害発生時期や状況を調査した。食害の発生は11月頃から多くなり,特に今後の樹高成長に影響を及ぼす主軸の食害は12月から多くなった。また,約7割が3月までに主軸の食害を受けていたことが分かった。下層植生がなくなる冬季に食害が集中して発生したため,今後はこの期間の防除方法について検討する必要がある。

710 九州広域におけるニホンジカ個体群動態に対する捕獲圧と気候の影響
〇鈴木圭(森林総研九州支所),桑野泰光(福岡県農林業総合試験場),金森由妃(水産機構 水産資源研究所),川内陽平(水産機構 水産資源研究所),安田雅俊(森林総研九州支所),近藤洋史(森林総研九州支所),岡輝樹(森林総研) 九州ではニホンジカ(以下シカ)の個体数管理のために捕獲数が2000年から2015年までに6倍にも急増している。本研究は,捕獲圧の急増がシカ個体群動態に与える影響を気候要因(低温や積雪)も含めて評価した。まず,福岡県,大分県,熊本県および宮崎県から提供された糞粒法調査の結果を基に,Vector Autoregressive Spatiotemporal modelを用いて1995~2019年の個体群動態を推定した。その動態は短期的な変動をしているものの,長期的には安定し,増加,減少といった一定の傾向はみられなかった。次に,推定された個体群動態に対する年間捕獲圧,1月の平均気温,12~2月最大積雪深の影響をVector Auto Regressive modelによって評価した。AICによるモデル選択の結果,最大積雪深を含むモデルが最良モデルとして選ばれ,積雪が多かった年の翌年に個体数が減少した。つまり,捕獲数は急増し,近年その数は毎年10万頭を超えているものの,その影響は個体群動態にあまり大きくなく,気候の変化が重要であることが示唆された。

711 高隈演習林における糞粒法を用いたシカの生息密度調査
〇堂前百夏(鹿大農),芦原誠一,塩谷克典,畑邦彦,榮村奈緒子 ニホンジカ(以下シカ)は近年個体数が増加し,農林業,生態系への両面に大きな被害を与えている。鹿児島県においても,南薩と大隅地域を除く全域で被害は深刻であり,今後シカの分布拡大によって南薩と大隅地域でも同様の被害の増加が懸念される。大隅半島北西部に位置する鹿児島大学農学部附属高隈演習林においても,シカの目撃情報が近年増加傾向にあるが,生息状況の詳細は不明であった。本研究では演習林内におけるシカの分布,生息密度,および食害状況を明らかにすることを目的とした。2020年2月から演習林内の20カ所でベルトトランセクトを設置し,糞粒法による密度調査と食害状況の目視観察を行った。その結果,シカの糞が確認されたのは演習林南部の2カ所のみであった。また,枝葉の食害や剥皮被害は南部以外でも観察されたが,わずかであった。高隈演習林内のシカは現状においては低い密度であると判断された。

712 対馬でのシカの行動周期性について
〇柳本和哉(長農セ) 対馬地域にはニホンジカ(以下,シカという)が高密度に生息しており,森林や生態系に大きな影響を与えている。新植地だけでなく,広葉樹の皆伐跡地でもシカによる食害が起きており,天然更新できない箇所が増えている。 県では第2種特定鳥獣(ニホンジカ)管理計画で,対馬でのシカの生息頭数を推定しているが,対馬においてその行動を調査した事例は少ない。 そこで,一定期間,自動撮影カメラを設置し,シカの出現状況や行動パターンを調査した。 また,当該試験地周辺に種類の異なる防鹿ネットを設置し,その効果等を比較検討したので報告する。

713 捕獲ジカの計測によるキュウシュウジカの体格
○野宮治人(森林総研九州) 1990年代以降、シカによる林業被害が獣害の第1位となっている。特に、植栽から数年の間は植栽木の枝葉をシカが摂食して被害を受ける。シカが枝葉を摂食する高さはシカの体格との関連が推定されるが、シカは性別や生息地域によって体格に大きな差がある。そのため、ある地域で摂食被害を受けやすい高さを知るためには、その地域のシカの体格を明らかにする必要がある。これまで九州各県ではシカ(キュウシュウジカ)の保護管理のため特定鳥獣保護管理計画などに関連して捕獲調査が実施されており、捕獲したキュウシュウジカの体格に関する計測値を報告書で公表している。今回、1997~2002年に発行された長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県の報告書に記載された864個体の計測値を集計した。2齢以降の体重はオス(56kg)がメス(41kg)よりも重く、肩までの高さ(体高)もオス(83cm)がメス(74cm)よりも10cm程度高いことが明らかになった。