林政

101 福岡県における生産森林組合の活動実態
大田真彦(九工大教院) 生産森林組合の制度は,1966年以降,入会林野近代化事業を中心に推進されてきた。生産森林組合に関する事例研究は一定の蓄積があるが,林野庁が公表する統計資料よりも詳細な活動実態に関する情報を,一定の量の事例とともに提示した研究は限られている。本研究では,福岡県を事例とし,生産森林組合の活動実態の量的把握に貢献することを目的とする。国税庁法人番号公表サイトで,福岡県に登録されている56の生産森林組合を対象に調査依頼書を送付し,回答があった11事例の情報を用いる(9事例は対面での聞き取り,2事例は電話あるいは書面での回答)。調査は2018年10月から2019年5月にかけて実施した。3つの事例で,事業(林業)収入が確認された。5つの事例で,事業外(非林業)収入が確認され,いずれも,他の事業体への借地料を含んでいた。11中9事例で,ここ2,3年の間に,何らかの保育作業を実施していた。1事例は認可地縁団体へ既に移行し,2事例で移行を検討していた。

102 主伐期を迎えた林業公社の分収林経営の現状と課題について
石黒秀雄(鹿大農) 林業公社(以下「公社」という。)は,人工造林の推進を目的とした1958年の分収造林特別措置法の制定を契機に,39都道府県に44公社が設立された。事業地は,奥地など森林所有者が自ら造林を行うことが困難な地域を主とし,これまで40万haを超える森林造成により山村の雇用の創出,森林の有する多面的機能の発揮などの重要な役割を担ってきた。事業資金は,長期借入により調達し,立木伐採時の分収益から償還するといったビジネスモデルとしてきた。立木価格は,1980年をピークに下落する一方,事業費が高騰し債務が累積した。近年,将来的に借入金の返済の見通しが立たないとし14公社が解散し府県営の分収林として事業を行っている。現在,24都県の26公社の一部において厳しい経営状況にありながら主伐を行っており,本発表では,その経営の現状と課題を考察する。

103 林業作業員の考える職場環境の改善点
〇奥山洋一郎(鹿大農),山台英太郎,枚田邦宏 林業従事者の確保,育成のためには,現場作業員の職場環境の状況把握が必要となる。本研究では,現場作業員の抱えている不満について明らかにすることで,その要因や林業作業現場での改善点を考察する。調査方法は,林業での初期の研修者(緑の雇用,フォレストワーカー研修受講者)および現場管理責任者(緑の雇用,フォレストリーダー研修受講者)を対象に意識調査を実施した。調査地は愛媛県,宮崎県,鹿児島県,長崎県,三重県,広島県,各県の研修会場でアンケート(309人)とインタビュー(48人)に対して実施した。結果として,改善点,意見が複数得られたが,例えば事務と現場との連携では,事務の方で会社をどう動かしているのかが分からないという意見が得られたが,これらの改善のためには緑の雇用の研修中で現場作業だけではなく事務の仕事を学ぶ等の改善案が示された。

104 林業事業体における人事管理の実態調査
〇上栗慎吾(鹿大農),枚田邦宏,奥山洋一郎 林業における大きな課題として林業従事者の確保,定着がある。林業従事者の推移は長期的に減少傾向となっており,近年は減少が緩やかにはなっているが減少を続けている。そのような状況で,緑の雇用制度により新規就業者が増加に一定の効果が見られ,新規就業者の確保については一点の光明が見えてきている。しかし,現在日本全体の人口が減少している中,急激な林業従事者は望めず,林業が盛んであった時代の従事者数になる事は無いと考える。そのため,林業従事者の新規就業者数を増加させる事も重要であるがその定着を図っていく事が求められる。林業従事者の定着を図る上で重要となる事として人事管理が挙げられるが,現在人事管理の在り方はよく分かっていないのが現状となっている。そのため,本研究は林業事業体の人事管理の現状を調査し,人事管理の在り方を考察する事を目的としている。今回は鹿児島県の森林組合での調査を発表する。

105 北海道における自伐型林業展開の現状
〇佐藤百栞(九大院生資環),佐藤宣子(九大院農),柿澤宏昭(北大農院) 近年,森林の経営管理,施業を山林所有者や地域住民が自ら行う「自伐型林業」が注目されており,主に西日本の事例が紹介されてきた。一方,国公有林や会社有林比率が高い北海道では,自伐型林業を行う個人や地域の実態に関する研究事例はない。しかし,2016年に北海道自伐型林業推進協議会(以下,北海道自伐協)が発足するなど,近年自伐型林業を積極的に展開しようとする動きが見られる。そこで本研究では,北海道自伐協を対象にて設立経緯と活動状況,同会が実施した研修会参加者を対象に,6名の聞き取りを実施し,北海道における自伐型林業の実態を考察した。その結果,北海道自伐協には自伐型林業に関わる多様な人々が集まっていること,またその各人は主に天然林での森林管理を行い,さらに薪炭の生産,販売といった広葉樹資源を活かした活動等を行っていることが明らかになった。

106 日本におけるスマート林業の展開:「林政ニュース」のレビューを中心に
〇大平健太(九大農),藤原敬大(九大院農),佐藤宣子(九大院農) 少子高齢化が進行する中,森林資源を活用し,林業の成長産業を進めるために,「スマート林業」が推進されている。林野庁によると「スマート林業」は「地理空間情報やICT等の先端技術を駆使し,生産性や安全性の飛躍的な向上,需要に応じた高度な木材生産を可能とするもの」とされる。一方,「スマート林業」が様々な意味で用いられ,明確な定義がなく,共通理解が必要である。。そこで本研究は,「林政ニュース」,「森林,林業白書」,「日刊木材新聞」のレビューを行ない,「スマート林業」の取り組みの経緯と現状について明らかにした。その結果,「スマート林業」は「スマート農業」の派生的位置づけとして2014年に初めて使用されたことが分かった。また「日本再興戦略2016」の中では「地理空間情報(G空間情報)や宇宙を利用した産業」として「スマート林業」が位置付けられていたことも明らかになった。

107 大規模製材工場進出による地域木材市場への影響
〇尾分 達也(宮大農),藤掛 一郎 木材価格は短期的な乱高下が発生することがあり,その影響を回避するため,原木市場を介さない木材の協定取引(直送取引)が注目されている。協定価格は原木市場価格を参照しているため市場価格変動の影響を受けると考えられるが,大規模製材工場やバイオマス工場の近年の設立増加と直送体制の整備は,木材価格の変動等地域の木材市場に影響を与えている可能性が考えられる。価格の安定は産業の安定化に寄与するが,一方で,協定価格と原木市場価格の関係は明らかにされていない。そこで本研究は,宮崎県においてに大規模製材工場(年間原木消費量約60万?)が設立された2014年10月以降の県内複数の原木市場の木材価格の月次データを分析し,宮崎県における近年の木材価格の特徴を明らかにした。製材工場の登場以降,特にB材の価格の変動幅は徐々に小さくなるといった傾向が見られた。

108 市町村による林務行政の意義と可能性 ―主伐増加に伴う伐採届の対応
〇枚田邦宏(鹿大農),奥山洋一郎 地方分権化により市町村の林務行政の役割は大きくなってきている。近年,伐採期に達した人工林を多く有する市町村の一部では,主伐(皆伐)が進行しており,それに伴う盗伐,誤伐の報道もされ,昨年度の本学会報告でも事例が報告されている1)。いままで普通林の場合,市町村は伐採届を受け取るのみで,積極的な行政指導はやりにくいと考えられてきた。しかし,主伐面積の拡大,車両系システムによる伐採の進行により,環境配慮した作業の実施,主伐後の更新の保証の問題が発生している。このような中,どこまで市町村は主伐に対して指導できるのか,鹿児島県内の事例を見ながら検討したい。これを通して無力といわれてきた市町村林務行政の意義について論ずる。  引用文献;○御田成顕(九大決断セ),知念良之:盗伐被害の民事訴訟における争点:宮崎県南部の事例から,第75回九州森林学会(2019),鹿児島

109 ニホンジカを対象とした第二種特定鳥獣管理計画と県間協力:九州を事例に
〇生駒さや(九大農),藤原敬大(九大院農),佐藤宣子(九大院農) 野生鳥獣の中でも二ホンジカ(以下「シカ」)は,?皮被害,種子の採食,下層植生や稚樹の採食による森林の更新阻害といった自然植生への悪影響に加えて,林業経営へも甚大な被害をもたらしている。九州においてもシカによる森林被害は深刻で,2018年度の被害総面積は645haにのぼった。鳥獣保護法では,特に生息数の増加や生息域の広いシカなどの特定鳥獣に対して,科学的なデータに基づく鳥獣保護管理事業を計画的に実施するために,都道府県知事が策定する任意計画として,第二種特定鳥獣管理計画(以下「特定計画」)を設けている。現在,九州では福岡,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島の6県においてシカに対する特定計画が策定されている。またシカは複数の県にまたがって分布するため,九州をひとつの島として各県の協力体制が必要とされる。本研究は,九州各県の最新の特定計画に基づいてシカ管理の実状と県間協力体制ついて報告する。

110 市町村による森林環境譲与税の利用  ―千葉県山武市の事例-
〇八角公二(鹿大農) 市町村による森林環境譲与税の利用 ―千葉県山武市の事例- 森林経営管理法が施行され,法律の目的の推進と市町村が進める森林整備を森林環境譲与税の財源で行おうとしている。 市町村が進める森林整備は,まちづくりの基本構想や,それに基づいて策定された森林整備計画の実現に向けて,独自の森林整備が継続的に進められることが望ましい。 また,森林の多面的機能の恩恵を将来にわたって多くの人が享受できるように森林環境譲与税を有効に活用をしていくことが必要であると考える。 本報告では山武市を事例に森林環境譲与税を財源にした取り組みを考察する。山武市の基本構想は「海岸,田園,丘陵という豊かな自然環境を活かしたまちづくり」であり,この構想に基づき山武市森林整備計画が策定されている。この計画では「水源涵養林」,「快適環境林」,保護文化林」「木材生産林」の4つのタイプに森林を区分し,それぞれの森林が持つ多面的な機能を発揮するため,その機能に応じた森林整備を行うとなっている。山武市の森林環境譲与税の令和2年度の金額は12,159,000円であり,これらの使途について分析する。

111 地方自治体の森林整備費における住民一人あたりの納税負担額の概算
〇太田貴大(長大環境) 全国の平均納税額は1人60万円程度で推移している。地方自治体では,私有林を含めた森林の整備に,多くの公金を支出している。地方自治体の財源は,その自治体住民が直接に支払っている独自のもの(例えば地方税)だけでなく,自治体住民の支払の一部が入っている地方交付税,国庫支出金等の国からの配分金や,簡保や共済等の投資家が購入している地方債等,多岐に渡る。このため,国や地方政府が実施,補助する森林整備費のうち,実際に当該自治体の住民一人一人が負担している金額がどの程度になるかは明示しづらい。本研究では,地方自治体を対象に,平均的な属性を持つ住民一人が森林整備に対して支払っている税額を概算する。方法は,実際に支出されている森林整備費用を把握し,その財源において地域住民が直接支払っていると判断できる部分を割り出し,人口や個人属性等を考慮して,一人あたりの平均的な負担額を算出する。

112 2017年九州北部豪雨被災集落における農林業構造の変化と復興プロセス―広葉樹による景観再生の可能性―
〇原田佳生(九大農),藤原敬大,佐藤宣子 近年,豪雨災害が増加しており,日本各地の森林にも深刻な被害をもたらしている。豪雨によって崩壊した森林の斜面を修復する場合,土砂災害防止や土壌保全に加えて,森林景観や風致を考慮することが重要である。本研究は「平成29 年7 月九州北部豪雨」によって住宅や道路が甚大な被害を受け,森林景観を大きく損なった福岡県朝倉市杷木志波平榎集落を対象に,復興委員会における参与観察や現存する19戸に対する半構造化インタビューを通じて農林業構造の変化を明らかにし,広葉樹植栽による景観再生の可能性について考察した。その結果,平榎集落では柿園が主要な産業であり,集落景観の主要な構成要素であることが明らかになった。しかし豪雨災害後,約半数の住民が他出し,19 戸のうち4 戸が柿の栽培を断念していた。現在見晴らし台を中心として近景の柿園と遠景の森林による景観づくりが計画されているが,柿園の担い手の確保が喫緊の課題となっている。

113 阿蘇くじゅう国立公園における阿蘇地域の草原管理について
〇加藤小梅 , 枚田邦宏 , 奥山洋一郎 阿蘇くじゅう国立公園は熊本県と大分県に跨って位置し,阿蘇山やくじゅう連山などの火山群,その周辺に広がる雄大な草原景観を有する国立公園であり,この草原景観は「野焼き,採草,牧畜」などの長年の人々の営みによって維持されてきたものである。しかし近年では,社会様式の変化や高齢化などにより草原景観の維持が困難になってきている。これまでの研究では阿蘇くじゅう国立公園のくじゅう地域の草原管理の現状や野焼きにおける課題を明らかにした。その際に,阿蘇くじゅう国立公園は一つの国立公園でありながらも,くじゅう地域と阿蘇地域とで草原景観の維持に対する取り組み方に違いがあるのではないかと考えられた。そこで,本研究では,阿蘇地域における草原の利用や管理について調査を行い,くじゅう地域との比較を行うことを試みた。

114 「屋久島町観光基本計画」策定時における住民参加の実態と課題
WANG JING(鹿大農),枚田邦宏,奥山洋一郎 世界自然遺産に登録され,屋久島の観光関連産業は飛躍的に発展し,地域経済に多大な影響を与えた。一方,縄文杉を中心とする山岳部への一極集中の為,自然環境が劣化したとの指摘もある。そこで,屋久島町は平成26年8月から一連の会議と調査を行ってから,28年3月に「屋久島町観光基本計画」を策定した。「計画」はエコツーリズムによって,適正な自然観光資源の利用を図り,観光振興と環境保全をバランスよく両立させ,持続可能なまちづくりを推進することを目的とする。「計画」を成功させるためには,地域住民の積極的な協力が望まれる。計画策定への住民参加が実行段階の住民による協力を活性化する効果があると言われている。本発表は,計画策定段階に実施した住民向けの意向調査の結果と「計画」の最終案との関係について分析し,計画策定への住民参加の実態を明らかにする。

115 都市近郊林における過剰利用の規制案に対する来訪者の意見-篠栗九大の森を事例として-
〇古賀淳之介(九大生資環),佐藤宣子(九大院農) 国民の森林の多面的機能への注目が高まる中,森林のレクリエーション利用も活発化している。一方で人気の森林レクリエーション地に利用が集中することによって生態系や地域住民の生活空間に様々な問題が生じている。このような中,過剰利用に対する効果的な抑制方法を議論する必要性が叫ばれている。本研究では,ソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じて人気が高まり,森林内の根の踏み荒らしや大型バス乗り入れによる近隣道路の渋滞等の問題が報告されている「篠栗九大の森」を対象として,抑制方法の在り方を考察することを目的とした。方法は,2019年10月~2019年12月の間に「篠栗九大の森」南口にて計4回実施した来訪者へのアンケート調査(205部回収)を用い,来訪者属性別(年齢,来訪手段,来訪目的等)に,規制案(移動手段の限定,料金徴収等)に対する来訪者の意見の特徴を分析した。

116 森林環境教育の推進に向けた課題 -福岡県糸島市を事例に‐
〇市野瀨愛(九大院生資環),佐藤宣子(九大院農) 2016年の森林林業基本計画で森林環境教育等の充実を目指すことや学校林等の身近な森林の活用を進めることが明記された。一方,実施するにはフィールドの確保等の課題も多く,課題解決には地域の他主体との連携が必要である。本研究は森林環境教育を学校が継続的に実施する上での課題を考察することを目的に,福岡県糸島市で森林環境教育の実施状況が異なる小学校二校の教員を対象に,アンケート調査を行った。その結果,赴任校ごとに教員の森林環境教育への認知度や実施意欲が大きく異なること,未実施校では実施校よりも,外部講師探し,教材,プログラムの準備,児童の安全確保の面で課題を抱える教員が多いこと,両校の教員の半数以上が,時間の不足,人材(教員)の不足,教え方が分からないといった課題を感じていることが明らかになった。今後,未実施校での森林環境教育の推進には,教員の意欲と感心を高めるとともに,上記の課題解決が求められる。

117 全国の大学演習林における「山の神」祭事の現状について
〇西川希一(鹿大農),奥山洋一郎,枚田邦宏 これまで民俗学の分野においては,山の神や,それを信仰している山村の研究が多くされてきた。しかし,木材供給の役割の多くが林業事業体に移った今,それらを対象にした山の神の研究はこれまでほぼされていない現状にある。 本研究では,九州内の森林組合と全国の大学演習林に対して電話での調査を行った。調査項目は,「祭事の呼称」,「開催日」,「始めた時期」など祭事の基礎情報,「当日の職務状況」「供え物」,「参加規模」,「行う理由」など祭事の内容,「神の名前」,「性別」,「遣い」など山の神の特徴についてである。 これらを比較することで地方における特徴や,差異が生じる背景について考察する。

118 宮崎県北地域における蜂の子採取の展開
〇梶原理人(宮大農),藤掛一郎 九州山地に位置する宮崎県北5町村ではオオスズメバチの蜂の子食文化が色濃く残っており,蜂の子を採取する際は「蜂つなぎ」と呼ばれる,巣に帰る蜂に目印をつけて飛ばす技法が使われていることが分かっている。しかし如何にそのような方法が確立されてきたのかは明らかではない。本研究ではこれを明らかにすべく,5町村の実践者9組に聞き取り調査を行った。その結果1960年代以前,蜂の子採取は地元で夜間に行われていたが,遅くとも1970年代には蜂つなぎの技術が確立され昼間に行われるようになり,1980年代以降自動車交通の発達で,現在のような隣県各地に遠征し1日中蜂の巣を掘るような趣味となったことが分かった。ただし,九州山地の奥にある椎葉村では,現在まで遠征はほぼ行われておらず一部の集落には昔ながらの採取の形も残っていた。現在実践者の8割が60代以上で若い実践者は少なく,今後活動が縮小していく可能性が高い。