造林

401 異なる灌水および施肥下で育成したスギ挿し木コンテナ苗の植栽後の活着と初期成長
〇伊藤 哲, 松枝 亮良, 平田 令子, 中山 葉月,山岸 極, 栗田 学, 長倉 良守 主伐,再造林の拡大に伴い苗木需要が増加する中,良質な苗の短期大量育成技術の開発が望まれている。スギ挿し木コンテナ苗を短期間で規格に到達させるためには,潅水,施肥などの育苗環境の管理が重要である。これまでの研究では,過度の灌水や施肥が苗の地上部(蒸散器官)と地下部(給水器官)のバランスを悪化させ,野外植栽後の活着率や成長を低下させるという報告もある。そこで本研究では,植栽に適した苗の特徴および育苗環境を実験的に明らかにすることを目的とした。潅水頻度3種類×施肥量4段階で育苗したスギ挿し木コンテナ苗(精英樹:県竹田11号)に,植栽時施肥を加えた15処理(計105個体)を宮崎大学農学部圃場に植栽し,その後の樹勢および成長を記録した。本講演では植栽同年9月までの結果に基づいて分析した結果を報告する。なお,本研究の一部は,農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行った。

402 コンテナ移植後のスギ挿し木根鉢形成を促進する最適な施肥および灌水量
〇松枝 亮良, 山岸 極, 伊藤 哲, 平田令子, 栗田 学, 長倉良守 現在,主伐後の再造林に向けた苗の大量安定供給が重要な課題となっている。スギ挿し木コンテナ苗の短期育成においては,コンテナ移植後の根鉢形成促進が重要なポイントとなるが,根鉢形成を促進する最適な灌水および施肥方法については未だ十分な情報が得られていない。そこで本研究では,スギ挿し木コンテナ苗の育苗における最適な灌水と施肥方法を明らかにすることを目的とした。2019年4月から用土を使わずミスト潅水下で発根させた精英樹(県竹田11号)の挿し穂360本を,同年8月末にコンテナに移植した後,温室内で潅水頻度3段階×施肥量4段階の計12処理を設けて翌年3月末まで育成した。本講演では,移植3カ月後および7カ月後の測定結果を基に,潅水頻度および施肥量が根形発達及び地上部成長に与える影響を解析した結果を報告する。なお,本研究の一部は,農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行った。

403 スギコンテナ苗の形状比を小さくする傾斜育成法の実用性-傾斜処理の期間および植栽後の成長-
〇三樹陽一郎(宮崎県林技セ) スギコンテナ苗は,植栽後の倒伏を低減するために出荷時の形状比(苗高/基部直径)を小さくすることが望ましいとされている。これに対して傾斜育成法は,育成中のコンテナ苗に傾斜処理を行うもので,苗高伸長の抑制と地際直径の成長促進に効果があり,形状比を小さくする手法として期待できることをこれまでの研究で明らかにした。さらに今回は,傾斜育成法の実用性を重視して,傾斜処理の期間および植栽後の成長について検討した。傾斜処理の開始を4・6・8月に分けてコンテナ苗を育成した結果,年内出荷において形状比を小さく仕立てるには6月頃までに傾斜処理を開始した方が適切と考えられた。また,当センターの苗畑に傾斜処理の有無別に育成した2年生コンテナ苗を2月に植栽し,12月までの成長状況を調査したところ,傾斜処理苗の樹高は6月頃から旺盛になり,秋には無処理苗を超える個体が多くなった。

404 スギ特定母樹コンテナ中苗を用いた下刈り省略試験-4年間の成長と競合状態-
〇平田令子(宮大農),伊藤 哲,山川博美,永井純一,釜 稔 演者らは2017年より,熊本県人吉市に位置する西浦国有林において,成長の早い特定母樹(県姶良20号)で苗長が普通苗より大きい70~90cmのスギコンテナ中苗(挿し木苗)を用いた下刈り省略の可能性を調査してきた。これまでの結果から,(1)プランティングショックを回避するための植栽時の摘葉はスギコンテナ中苗では不要,(2)特定母樹中苗であっても植栽1,2年目は下刈りが必要だが3年目以降は省略できる可能性がある,(3)ススキによる被圧は落葉広葉樹よりも中苗の成長への影響が大きい,(4)植栽時の形状比(平均108)が低ければ植栽直後からの伸長成長が期待できるかもしれない,ことが示された。本発表では,植栽から4年目の中苗の成長と競合状態について引き続き調査を行い,3,4年目の下刈り省略,1,2,4年目の下刈り省略(3年目のみ下刈り実施),4年間の無下刈り試験の結果を報告する。

405 若齢スギ人工林におけるUAV空撮画像を用いた植栽木の樹高推定
〇山川博美(森林総研九州),高橋與明,飛田博順 近年,再造林コストを削減するため下刈り回数の削減が課題となっている。そのなかで,植栽木と雑草木との競争関係を解析し,植栽木の樹高を基準とした下刈り要否の判定が検討されている。しかしながら,植栽木の樹高は地形などによって林分のなかでバラツキがあり,林分としての下刈り要否を判定する際には,林分内における植栽木や雑草木の高さの分布を把握する必要がある。そこで,本研究では,広範囲の樹高を推定することを目的として,UAV空撮画像から得られたDSM(数値表面モデル)を用いて,若齢造林地での植栽木の樹高推定を試行した。その結果,飛行高度およびSfMソフトウェアでの処理方法の違いが樹高の推定精度および処理時間に影響を及ぼしていた。本稿では,これらの結果に基づき,若齢造林地でのUAVによる樹高推定の可能性について報告する。

406 下刈り省略試験2年目におけるスギ特定母樹コンテナ中苗の系統間の成長比較
〇山岸 極(宮大農),伊藤 哲,山川博美,平田令子,釜稔,大寺義宏 近年,造林コスト縮減の方策の一つとして,下刈り回数の削減が注目されている。下刈り省略の前提として,生育過程で競合植生との競争に対して植栽木が優位性を保ち,健全に生育する必要がある。したがって,特定母樹等の成長に優れた系統や初期樹高の高い中苗の導入は,下刈り回数削減に向けて有効な手法であると期待される。演者らは,2019年1月に特定母樹4系統(県姶良3,4,20号および高岡署1号)と在来品種(タノアカ)の中苗を植栽し,通常下刈り区および下刈り省略区を設定して,植栽木の成長と被圧状況の継続調査を行ってきた。本講演では,2020年秋季までの調査結果に基づいて,植栽木の系統間の成長の差異を分析したので報告する。

407 帯状伐採後の更新面に人工造林した植栽木の初期成長
〇新関一心(琉球大農),谷口真吾,松本一穂 沖縄島北部に成林する標準伐期齢に達したリュウキュウマツ人工造林において,林冠を構成する上層木樹高の1.0~1.5倍の伐採幅により帯状の伐採方法で収穫木を搬出後,帯状の更新面に有用樹の植樹造林を行った。下刈り等の初期保育が終了した段階で植栽木の成長を測定した。本発表は,帯状伐採後の更新面に人工植栽した植栽木の初期成長の差異から,小面積の帯状伐採における人工更新の有効性を検討したので報告する。 調査は,帯状伐区の長さ方向に任意に調査プロットを設定した。調査プロットは帯状伐採の更新面の中心から林縁に長方形の形状で設置し,その中に成立するすべての植栽木の樹高,胸高直径を計測した。その結果,植栽木の樹高,胸高直径のサイズ構成は,帯状伐採地内の植栽位置により差異があった。植栽木の成長は,帯状伐採の伐採幅の大きさに強く影響を受けると推察され,植栽位置から林縁と保残林帯までの距離によって変動することが示唆された。

408 スギ特定母樹裸中苗の植栽2年目の成長 ―ススキ型競合植生での事例―
〇中山葉月(宮大農),伊藤哲,平田令子,山岸極,山川博美 近年,再造林における低コスト化のために下刈りの省略が検討されている。下刈りの省略は苗の成長を低下させる可能性があり,これを回避する策の一つとして,成長に優れる苗や初期樹高の高い苗の導入が検討されている。演者らは,初期の伸長が期待できる植栽材料として,特定母樹由来の形状比の低い挿し木中苗(苗高80~90cm程度)を用いた下刈り省略の可能性を検討している。2019年3月に,主な競合植生がススキである試験地に特定母樹(県姶良20号)の裸中苗(形状比80前後)を植栽し,通常下刈り区と無下刈り区を設定して調査を行ってきた。その結果,ススキ型植生の下刈り後の再生が著しく速く,下刈り後2カ月程度で植栽木を被圧することが明らかとなり,非ススキ型競合植生による被圧状況とは異なっていた。本講演では,植栽2年目秋季までの測定結果に基づきススキ型と非ススキ型との被圧状況の違いによる成長差について検討した結果を報告する。

409 無下刈試験地の生育状況の検証と施業課題
〇釜 稔(九州局 技セン),濱田 辰広,大寺 義宏,西林寺 隆 去川国有林の無下刈り試験地(H10~19年度調査)は,スギ造林木は5年間無下刈りでもおおむね生存することが確認されたものの,成長量の減少,広葉樹との競合等が課題としてあげられた。 今般,調査終了から13年目経過し23年生となった当該林地について,現在の生育状況(造林木の成長,広葉樹の繁茂状況等)を調査,検証し,下刈りや除伐の有無,土地条件による影響等についてとりまとめたので,報告する。 また,これらを調査結果を基に,下刈り又は除伐を省力化する場合の条件,植栽適地の選択の重要性等について考察する。

410 若齢スギ造林地での下刈りパターンによる植栽木へのツル植物着生状況の違い
八木貴信(森林総研九州) 下刈りは重要だがコストのかかる保育作業である。そのためその省力化のために様々な下刈りパターンが提案され,下刈り省略の植栽木の成長への負の影響は必ずしも重大なものではないことが示されつつある。他方,ツル植物の成長は,下刈りが主標的とする非ツル植物の成長と異質である。ツル植物の成長は極めて急速なので,下刈りによって植栽木が競合植生に対する競争的優位を確立した後でも,ツル植物の着生が植栽木に重大な被害を与える危険がある。したがって下刈りの省略方法確立のためには,下刈り方法の違いが植栽木へのツル着生に与える影響についても検討する必要がある。本発表では,同一品種のスギを2017年に植栽し,異なる下刈りパターン下(毎年全面刈り,隔年全面刈り,初期3年全面刈り,毎年筋残し刈り,無下刈り)での初期成長を比較している試験地において,植栽木へのツル植物の着生状況を比較した結果を報告する。

411 人工林皆伐後1年目の再造林地における木本植物の出現状況
〇穂山 浩平(鹿森技セ),片野田 逸朗 近年,人工林皆伐後1年目の再造林地では雑草木が繁茂してないことを理由に,1年目の下刈りが省略されることが増えている。一方,人工林皆伐後2年目からの下刈りでは,アカメガシワなどの先駆性落葉広葉樹が下刈り後に萌芽再生するが,下刈り前の樹高が高いほど下刈り後に再生する萌芽の樹高が高く,下刈り前の樹高が低い個体では下刈り後の枯死率が高くなることが明らかになっている。 人工林皆伐後1年目の再造林地では先駆性落葉広葉樹の樹高が低く,1年目に下刈りを実施すれば,2年目以降の再生力を抑制できる可能性があることから,1年目の木本植物の出現状況を調査するとともに,下刈りの実施時期についても検討したので,その結果について報告する。

412 九州産スギ6品種のリターフォール生産量の比較
〇榎木 勉(九大農),山口桃子,枡田明莉,鵜川 信, スギ品種による地上部純一次生産の違いを明らかにするために,九州大学宮崎演習林(以下,椎葉)と鹿児島大学高隈演習林(以下,高隈)に設定された共通圃場(45年生)において,クモトオシ,ヤイチ,オビアカ,ヤブクグリ,メアサ,アヤスギでリターフォール量を測定した。年間リターフォール量は早生型のクモトオシやヤイチの林分で多かった。早生型の品種は地上部構造も大きいため,胸高断面積合計あたりの値で比較すると,リターフォール量は晩生型のメアサやアヤスギの林分で大きかった。純一次生産の幹への配分割合は早生型の品種で大きく,晩成型の品種で小さいと考えられる。繁殖器官のリターが全リターフォール量に占める割合は品種間で違いがなかった。針葉リターを多く生産する品種は繁殖器官の生産量も大きいと考えられる。椎葉は高隈と比較して,スギの樹高が高く,品種間差も大きかった。リターフォール量の品種間差も同様に椎葉で大きかった。

413 コウヨウザン苗の食害に対するミカンネットおよびカプサイシン散布の効果
〇鵜川 信(鹿大農),藤澤義武,大塚次郎,近藤禎二,生方正俊 近年,日本各地でコウヨウザンの植栽が進められているが,同時にノウサギによる苗木の食害が報告されている。この問題への対策として,物理的な防除と忌避物質の散布が挙げられる。とくに,後者では既存の忌避剤以外にも様々な忌避物質の模索も必要である。そこで,本研究では,コウヨウザン苗の食害に対するミカンネットの効果と,トウガラシから抽出したカプサイシンの忌避効果を明らかにすることを目的とした。鹿児島大学高隈演習林の皆伐地において,4つの処理(ミカンネット設置,カプサイシン散布,展着剤入りのカプサイシン散布,未処理)を施したコウヨウザン苗を植栽し,食害の有無や苗木の成長を1年間観察した。本発表では,食害に対するミカンネットおよびカプサイシンの効果を報告するとともに,適用上の問題を提起する。本研究は,農林水産省委託プロジェクト「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」の支援を受けて行った。

414 下刈りによるコウヨウザン苗木の生育環境の変化
〇山下穂菜美(鹿大農),鵜川信,藤澤義武 下刈り省略による森林施業の低コスト化の観点から,初期成長が良いコウヨウザンが注目されている。しかしながら,苗高が低い成長初期においては,光資源や土壌資源を巡る雑草木との競合は免れず,下刈りによる競合の軽減はコウヨウザンでも必要である。そこで,本研究では,コウヨウザン周辺の光資源,水資源に対する雑草木の影響を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するため,コウヨウザンと雑草木周辺の光環境と水分環境を下刈り前後で比較した。鹿児島県内2か所(姶良市,伊佐市)のコウヨウザン植栽地において,毎年下刈り区と無下刈り区を設置し,下刈り前と下刈り後でコウヨウザン植栽苗の樹冠の受光量(GLI),コウヨウザン植栽苗と雑草木の葉の水ポテンシャル,土壌含水率の測定を行った。本発表ではこれらの結果を報告する。本研究は,農林水産省委託プロジェクト「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」の支援を受けて行った。

415 植栽時期を変えたコウヨウザンコンテナ苗の成長
〇池田 希(鹿大農),鵜川 信,藤澤義武,大塚次郎,近藤禎二,生方正俊 針葉樹の早生樹であるコウヨウザンはスギよりも成長が速く,下刈り等における低コスト化が望めるが,ここに一貫作業システムを適用すれば,更なる低コスト化が期待できる。一貫作業システムを通年で実施する上でコンテナ苗の使用が勧められるが,コウヨウザンではコンテナ苗の通年植栽が可能であることが確認された。一方で,植栽後の初期成長が植栽時期に影響を受け,結果として下刈りのコストに影響する可能性が考えられる。そこで,本研究では,植栽時期の違いがその後の成長に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するため,鹿児島県内3箇所(伊佐市,姶良市,垂水市)に試験区を設置し,コウヨウザン苗を2月,5月,8月,11月に植栽して,苗木の幹直径,苗長を観察した。本発表では,1年以上にわたる成長の観察結果を報告する。本研究は,農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行った。

416 ムクロジ生育林分の構造とその生態的特徴
〇片野田逸朗,畠中雅之(鹿県森技セ) ムクロジは国内に広く分布する落葉高木であり,深根性で寿命が長く,成長も旺盛であるため,不採算人工林における植栽樹種として有望視されている。しかしながら,本種は低密度で分布する少数個体樹種であることから,これまでの研究事例がほとんどなく,その種子散布様式や更新過程といった生態的特徴についても不明な点が多い。  著者らは,本種が低密度で分布する姶良市の林分を調査するとともに,本種の幼木が高密度で分布している植生を確認してきたが,その後,さつま町で本種が優占する若齢林分を見つけ,その林分内で本種の種子がシカの吐き戻しによってまとまって散布されていることを確認した。  そこで,姶良市とさつま町のムクロジが生育する林分を対象に毎木調査を行い,その林分構造を比較することで,ムクロジの生態的特徴について検討を行った。

417 斜面下部や谷部における不採算人工林の類型化と将来の目標林型について
〇畠中雅之(鹿森技セ),片野田逸朗 2019年度から始まった「森林経営管理制度」により,市町村が森林所有者から経営管理の委託を受けた森林のうち,自然的条件に照らして林業経営に適さない森林については,市町村が自ら管理することとなっているが,その施業管理方法について示されたものはない。  そこで,林業経営に適さない森林を誘導するのが望ましい針広混交林の目標林型を設定するために,姶良市蒲生町の斜面下部や谷部に成立している人工林を対象に植生調査を行い,その林分構造や種組成をもとに類型化を行ったので報告する。

418 暖温帯広葉樹二次林における皆伐後の萌芽発生に樹齢と幹サイズが与える影響
松仁天志郎(九大生資環),内海泰弘,榎木勉 伐採後の萌芽発生に樹齢と幹サイズが与える影響を明らかにするために,九州大学福岡演習林内の暖温帯広葉樹二次林を皆伐し,一年後に発生した萌芽数と萌芽枝高を調べた。皆伐前の林分は常緑性のアラカシ,ヤマモモ,クスノキと,落葉性のコナラ,ハゼノキ,クリが優占し,低木層はヒサカキ,ネズミモチ,ネジキが多く見られた。常緑高木種は,ほとんどの幹で萌芽が発生し,全ての樹種で樹齢と幹サイズの増加に伴う萌芽数の増加が見られた。一方で,落葉高木種は萌芽が発生しなかった幹が多かった。また,萌芽数は樹齢の増加に伴い増加したが,幹サイズの増加に対しては減少した。低木種の萌芽数は,全ての樹種で樹齢の増加に伴い減少したが,幹サイズの増加に対しては増加した。各種の萌芽枝高の最大値は,伐採前の林分における各種の最大樹高と正の相関があった。常緑高木種では,萌芽枝高は幹サイズと樹齢の増加に伴い増加する傾向があった。

419 南西諸島におけるスダジイ堅果着果量の目視モニタリングの取り組みと成果
〇高嶋敦史(琉大農), 久高奈津子, 阿部 真, 安部哲人, 小高信彦 沖縄島北部と奄美大島の天然林で,森林の更新や野生生物の餌資源に重要な優占種のスダジイ(イタジイ)について,観察対象木を定め,双眼鏡を用いた目視による手法で堅果着果量のモニタリングを5年間継続した。その結果,2015年から2019年までのモニタリング期間中,2016年から2019年までの4年間はおおむね両島の間で豊凶が同調する傾向が確認された。また,2018年からの2年間は同様のモニタリングを徳之島でも実施したが,2018年と2019件の豊凶の傾向は沖縄島北部や奄美大島と同調していた。この結果から,沖縄島北部,奄美大島,徳之島の天然林で優占するスダジイは,島をまたいで豊凶が同調する可能性が高いと考えられた。本研究で採用した双眼鏡を用いた観察手法は低コストで容易なうえ,対象木ごとの着果量の違いまで確認できることから,スダジイ堅果の豊凶モニタリングの手法として広く利用できることも確認された。

420 沖縄島北部やんばる地域におけるイスノキの優占度が高い非皆伐林の構造
〇矢部 岳広(琉大農), 高嶋敦史 大径木は,南西諸島の亜熱帯性照葉樹林において保全すべき森林の指標になると考えられている。なかでも,イスノキは台風などの被害を受けにくく,大径木は希少動植物に生息,生育環境を提供することからその重要性が指摘されている。そこで,やんばる地域のイスノキの優占度が高い非皆伐林において,胸高直径30cm以上の大径木の種構成やサイズ構造を調査した。その結果,イスノキがイタジイに次いで第二優占種となっていた。同地域における既往の研究と比較して,遷移後期種のイスノキの密度が極めて高く,攪乱依存種のイジュの密度が低かった。このことから,本林分は非皆伐林の中でも特に安定した成熟林であると考えられた。また,イスノキはやんばる地域の森林の生物多様性を支える樹種とされ,生態系機能維持のためには安定的な更新が望まれる。そこで,今後の動態予測にとって重要と考えられるイスノキの胸高直径30cm未満の幹のサイズ構造も調査し報告する。

421 やんばるの森の植物種多様性は樹種形質と関係があるか?
〇安部哲人(森林総研九州),工藤孝美(沖縄県在住),齋藤和彦(森林研関西),高嶋敦史(琉球大農) 新たに生物多様性保護区を設置する際の探索の負担軽減には有効な指標の活用が有効である.一般に樹木形質は林内の光環境や遷移過程との関係が深く,やんばるの森では成長が遅いイスノキの優占度が林齢や絶滅危惧種の多様性と正の相関が認められている.また,スダジイは萌芽能力が高く,伐採後も速やかに樹冠を回復するため優占したとされている.本研究では樹種形質(萌芽力,成長速度,材密度)が林齢と共に変化する種組成に与える影響を検証するため,各形質をプロット単位のスコアに換算し,種多様性との相関を調べた.その結果,絶滅危惧種の種数は萌芽力が低く材密度が高い樹種が優占する林分に多く,着生植物種数は年成長量が小さく材密度が高い樹種が優占する林分で多くなった.低成長や低萌芽力,高い材密度は林齢が高いほど増える遷移後期種の特性と考えられ,これら樹種形質には保全対象になりうる植物種多様性への指標性が示唆された.