701 吹上浜海岸クロマツ林における地上性キノコの発生種数に影響する気象条件
〇水田壮一郎(鹿大農),河南秀亮,内村瑞穂,榮村奈緒子,畑邦彦 演者らは2019年3月より鹿児島県吹上浜の海岸クロマツ林において地上性キノコの子実体発生の季節変化を調査し、冬季にキノコが多く発生するという、一般に考えられているのとは異なる傾向を昨年の本大会で報告している。そこで、今回はその理由を明らかにするため、地上性キノコの発生種数に対する気象条件の影響を解析した。調査は上記クロマツ林において2019年11月より週に1回実施しており、地上に発生する子実体を目視で探索し、同定、記録している。気象条件としては調査日前一定期間の平均気温と降水量、降水日数に着目し、種数との関係を解析した。その結果、2021年7月上旬までのデータにおいて、平均気温と種数には明瞭な関係は見られなかったが、降水量及び降水日数と種数には有意な正の相関があり、特に調査日前2週間の降水日数で高い相関が認められた。種数と調査日前2週間の降水日数の変動パターンは冬季を除いて概ね一致した。

702 吹上浜海岸クロマツ林における地上性キノコ各種の子実体発生条件
〇畑邦彦(鹿大農),河南秀亮,内村瑞穂,榮村奈緒子 演者らは鹿児島県吹上浜の海岸クロマツ林において地上性キノコの子実体発生の季節変化を調査し、冬季にキノコの発生種数が多いという通常と異なる傾向を昨年の本大会で報告した。それを受けて、本研究では同林分で継続中の子実体発生調査におけるキノコ各種の発生条件を、調査日前14日間の平均気温と降水日数に着目して検討した。調査は週1回の頻度で実施しているが、ここでは2019年11月~2021年1月のデータを用いて解析を行った。その結果、キノコ各種はそれぞれ一定範囲の平均気温で発生しており、発生温度が20℃以上の高温型、15℃以上の亜高温型、20℃未満の低温型、幅広い温度で発生した広域型に類別された。同様に降水日数についても、降水日数に一定の上限があった上限型、下限があった下限型、中程度の降水日数で発生した中間型、広範囲の降水日数で発生した広範囲型、気温の上昇に伴い降水日数が上昇した上昇型に類別された。

703 吹上浜海岸クロマツ林における地上性キノコの発生場所に影響する要因
〇原田優作(鹿大農),榮村奈緒子,畑邦彦 本研究室では、2019年より吹上浜の海岸クロマツ林で地上性キノコの発生調査を実施しており、リター層の有無で発生種が異なることを明らかにしているが、本研究ではそういった地上性キノコの発生場所に影響を与える要因として、リター層の有無以上の林床環境の違いとキノコ間の相互作用に着目して検討を行った。調査は2020年1月~12月にかけて毎週1回実施し、地上に発生するキノコの種、本数、発生場所を記録した。その結果、リター層の有無だけでなく、コケの厚さなど林床の微環境の違いによって発生種や本数が異なっており、地上性キノコの林床環境に対する選好性が示唆された。一方、リター層を除去した除去区ではキノコ各種の発生場所があまり重なっておらず、逆にリター層を除去していない対照区では発生場所がかなり重なっていた。これは、除去区と対照区でキノコ間の相互作用が異なり、前者における排他的な種間相互作用の存在を示唆する。

704 宮崎大学田野フィールドにおけるヤクシマランの生育分布
〇川﨑実椰(宮大農),平田令子,高木正博,伊藤哲 ヤクシマランは絶滅危惧ⅠB類(EN)に分類されている絶滅危惧種であり、鹿児島県と宮崎県にのみ分布している。環境省のレッドデータブック2014などにおいてヤクシマランは常緑広葉樹の林床または照葉樹林内に生育していると記載されている。しかし、宮崎大学田野フィールドではヒノキ人工林での生育が確認された。このことは、針葉樹人工林がヤクシマランの生育場所として機能している可能性を示す。本発表では、田野フィールドにおけるヤクシマランの生育分布を調査し、針葉樹人工林がヤクシマランの生育場所としてどの程度機能しているか明らかにすることを目的とした。調査は、2021年6月から9月にかけて行った。林齢の異なる針葉樹人工林を数カ所選択し、調査ルートを設定してヤクシマランの個体数と位置を記録した。調査の結果、105年生および99年生ヒノキ人工林での生育が確認された。本発表では、より林齢の低い針葉樹人工林の調査結果も含めて報告する。

705 スギ植栽地における褐色葉枯病の発生と林分環境
○小田三保(宮崎県林技セ),黒木逸郎,三樹陽一郎,上杉基 宮崎県内のスギ植栽地において、植栽木の枯死や旧葉が枯れ上がる被害が発生した。症状の激しい個体を持ち帰り調べたところ、幹の樹皮下にマスダクロホシタマムシ幼虫を、また枯れ葉上に褐色葉枯病の子実体を確認した。褐色葉枯病の発生は、林地の環境と土壌条件に深く関係するとされている。そこで、今回の被害に至る要因を探るとともに今後の対策に役立てるため、被害状況や林地及び土壌環境の調査を行ったので報告する。

706 クロサワオオホソカタムシの増殖方法の改良
大石毅(沖縄森林研セ),井ノ口あゆみ,比嘉悟,東江賢次 マツノマダラカミキリの天敵であるクロサワオオホソカタムシ(クロサワ)の近縁種であるサビマダラオオホソカタムシではキボシカミキリ(キボシ)の生きた蛹又は冷蔵した蛹を餌とした飼育法が報告されている。今回は、クロサワ幼虫に生きたキボシの蛹(生蛹区)、冷蔵した蛹(冷蔵蛹区)、冷凍した蛹(冷凍蛹区)を餌とした場合のクロサワの羽化率と体サイズ等に与える影響について検討した。クロサワの羽化率は生蛹区では57.1±10.2% (平均値±標準誤差)、冷蔵蛹区では43.9±5.4%、冷凍蛹区では39.2±7.6%であり、各区間で有意な差は確認されなかった。クロサワ成虫の体サイズは生蛹区では5.07±0.64㎜、冷蔵蛹区では5.48±0.12㎜、冷凍蛹区では5.65±0.12mmであり、生蛹区の体サイズに比較して冷蔵蛹区と冷凍蛹区は有意に高い値を示した。以上の結果から、キボシの蛹は生、冷蔵さらに冷凍した場合でも、クロサワ幼虫の餌として利用できることが明らかとなった。

707 自然下でもマツノマダラカミキリ幼虫の齢数は5齢以上
○吉田成章(なし) マツノマダラカミキリ幼虫の齢数は4齢とされてきた。しかし、幼虫を樹皮で飼育すると4回以上の脱皮が観察される。そこで、確実に脱皮を捉えるためにガラス板にマツ樹皮を挟んで幼虫を飼育する方法をとった。自然条件に近い状態にするため、餌は産卵前に伐り室内に放置したマツ丸太から採集した樹皮を使用し、木部も給餌した。これをプラスチックの箱に入れ湿度を保ち、さらに段ボール箱の中に入れ可視光を遮った状態で飼育した。ガラス越しに毎日2回以上脱皮を観察した。ガラス板の中でも幼虫は活発に摂食行動をすることから、呼吸に対する影響はないと判断された。頭蓋幅の計測は実体鏡に装着したビデオカメラで静止画を撮り録画した画像で計測した。その結果、同一齡期内で頭蓋幅は調査精度以上の変化はなかった。飼育した12頭のすべてで4回以上の脱皮を確認した。9齢を石窪1967が報告してることからマツノマダラカミキリ幼虫の齢数は5齢以上と判断される。

708 鹿児島県内のサカキ,ヒサカキ,シキミでみられた病害虫等
○川口エリ子(鹿森技セ),河内眞子,米森正悟 鹿児島県では,枝物としてサカキ,ヒサカキ,シキミの枝物生産が盛んで,県内各地で栽培されている。これらは供物として利用されるため枝葉の美しさが重要で,枯死や衰弱に至らないような被害であっても商品として深刻なダメージを及ぼすこともあり,さまざまな病害虫が問題となっている。また,新たな場所での栽培の増加や,栽培年数の経過に伴い,古くからみられる代表的な病害虫に加え,これまでに報告例がない,あるいは少ない,突発的,局地的な被害がみられるようになった。このような被害についても,今後被害の長期化や,被害地の拡大につながる可能性もあり,これらの事例を含めた被害発生状況を整理し,情報を蓄積することは,今後の病害虫防除の上で重要である。そこで,ここ数年で鹿児島県内でみられた枝物での被害についてとりまとめたので報告する。

709 鹿児島県におけるサカキブチヒメヨコバイによる白点被害の発生状況ー離島地域における発生状況と県本土におけるモニタリング調査ー
○米森正悟(鹿森技セ),川口エリ子,河内眞子,片野田逸朗 近年,本県においてサカキの成葉に白点被害が確認されている。白点被害の原因は,サカキブチヒメヨコバイによるもので,被害の実態や生態などが明らかになりつつある。これまでに演者らは,県本土における白点被害の発生状況を調査し,被害は県本土全域ではなく地域的にまとまって発生していることを明らかにした。本県のサカキは離島でも植栽されており,今後,被害拡大を防ぐためには離島を含め県全域において被害状況を把握するとともに,それらの経時変化をモニタリングすることが重要である。そこで,まだ調査を行っていない離島地域での発生状況を調べるとともに,県本土において令和元年度から2年度に行った調査地点のモニタリング調査を行ったのでその結果を報告する。

710 針葉樹人工林の複層林化は鳥類群集の種多様性に影響を与えるか
○西鈴音(宮大農),平田令子,伊藤哲 鳥類の種多様性は階層構造が複雑な林分でより高いことが知られている。しかし、針葉樹人工林の施業タイプの違い(単層林と複層林)では、鳥類の個体数と種数に差はないという報告もあり、階層構造の影響は明確ではない。そこで、本研究では複層林と単層林での鳥類種多様性を比較し、複層林における階層構造の複雑化が鳥類種多様性に影響を与えているか検証することを目的とした。調査は2021年の鳥類の繁殖期(6月中旬~7月)に宮崎大学田野演習林で行った。ヒノキ複層林1林分とヒノキ単層林2林分、および常緑広葉樹林1林分において、プロットセンサス法で鳥類の種数と個体数を記録し、種多様度と林分間の類似度を求めた。その結果、種多様度は複層林で単層林より高いとは言えなかった。常緑広葉樹林との類似度は複層林よりも単層林で高かった。これらのことから、複層林施業により、広葉樹林との類似性や鳥類種多様性が高まるとは限らないと考えられた。

711 カラ類によるアカメガシワ種子の種皮剥皮が発芽に与える影響
○平尾多聞(宮大農),平田令子,伊藤哲 アカメガシワの果実は果肉がなく蒴果で裂開し、黒い種子を露出させる。既往文献によるとアカメガシワの種子散布者としてヤマガラが種子を丸飲みし被食散布することが示されている。一方で、演者らのこれまでの室内実験と野外観察で、カラ類は外種皮のみを剥皮し摂食していることが観察された。カラ類による種皮剥皮は種子の発芽へ影響を与える可能性がある。そこで本発表では、アカメガシワ種子の発芽に与えるカラ類による種皮剥皮の影響を明らかにすることを目的とした。カラ類に剥皮された種子と人工剥皮処理、未処理の種子で発芽実験を行った結果、カラ類に?皮された種子の発芽率は人工剥皮処理に比べ低く、人工剥皮処理と未処理の間に有意差は見られなかった。カラ類により?皮された種子は保存状態が悪く発芽率が低くなった可能性があるが、人工剥皮によって発芽率は低下しなかったため外種皮の剥皮が発芽に与える影響は大きくないことが考えられた。

712 針葉樹人工林伐採跡地への森林性ネズミによる堅果運搬-伐採後3年目と17年目の比較-
○大野友揮(宮大農),久保田匠眸,平田令子,山川博美,伊藤哲 伐採地で再造林を行わない場合、天然更新による広葉樹林化が重要となる。重力散布型種子の伐採地への散布に関し、演者らがスギ人工林伐採後3年目に実施した調査では、堅果の伐採地への運搬距離は10m程度であり、下層が多い場所へ運搬される傾向が示された。現在は当時に比べ植生が回復しているため、ネズミの生息環境が変化したことにより、堅果の運搬距離が増加している可能性がある。本研究では、森林性ネズミによる堅果運搬について伐採後17年目と伐採後3年目の調査結果を比較し、堅果運搬状況の変化を確認することを目的とした。調査は宮崎県宮崎市に位置する田野フィールドで行った。2020年11・12月に伐採跡地と照葉樹二次林の林縁に磁石入り堅果を合計90個設置し、2021年8月に金属探知機を用いて捜索して発見場所を記録した。堅果は62個が運搬され、2個が設置場所から2.8mの地点で発見された。本発表では、残りの堅果運搬状況の結果も合わせて報告する。

713 外来鳥類のガビチョウとソウシチョウの鹿児島県本土における分布状況
〇吉田楽(鹿大農),畑邦彦,榮村奈緒子 ガビチョウはチメドリ科の外来鳥類で、国内では1980年代に野生化、以後分布拡大し、九州北部では既に定着している。本種は鹿児島県本土では霧島などで数例の観察記録があるものの、定着は未だ確認されていない。一方、同じチメドリ科の外来鳥類であるソウシチョウは既に県本土に定着している。どちらも環境省の特定外来生物に指定されており、在来生態系への影響が懸念されるが、本県における両種の分布状況の情報は十分でない。そこで本研究では鹿児島県本土におけるガビチョウとソウシチョウの分布状況を明らかにするため、2021年3月から6月に本県本土の標高の異なる167地点で鳥類の定点調査とガビチョウの鳴き交わし調査を行った。その結果、7地点でガビチョウ、12地点でソウシチョウと推測される鳴き声が確認された。また、前者は標高が100~500mの低地、後者は500m以上の高地で確認された。

714 自動録音調査とルートセンサスによる新島のウチヤマセンニュウの生息状況把握
坂元円香(鹿大農),畑邦彦,榮村奈緒子 桜島の北東にある新島では、絶滅危惧ⅠB類のウチヤマセンニュウが夏鳥として飛来する。新島は近年、観光資源としての利活用が推進されており、自然と調和した利活用を進めるためには、本種の生息状況を詳細に把握する必要がある。鳥類調査は一般的に鳥が活発に鳴く早朝に行う必要があるが、新島はアクセスが難しく、定期的な早朝の鳥類調査は今まで行われていない。そこで本研究では、新島で自動録音調査とルートセンサスを早朝に行うことで、本種の生息状況を明らかにした。自動録音調査では、自動録音機6台を異なる環境に設置して、2021年3月から週3回、日の出後1時間を含むように音声データを取得した(9月まで継続予定)。その結果、3月中旬以降に本種のさえずりが確認され、環境間でさえずり頻度が異なる傾向がみられた。ルートセンサスは6月と8月に各1回、日の出から75分以内に開始した結果、6月と8月にそれぞれ16個体と0個体が確認された。

715 自動録音機を用いた奄美大島におけるアカヒゲの生息状況調査
池田裕作(鹿大農),村中智明,畑邦彦,藤田志歩,鵜川信,榮村奈緒子 奄美大島は世界自然遺産登録が正式に決定となり、この普遍的価値を維持するためにモニタリングの必要性が高まっている。奄美大島では固有種を含む多くの希少な鳥類が生息している。定点調査やルートセンサスは鳥類のモニタリング方法として一般的な手法であるが、奄美大島の森のようにアクセスが困難な場所で早朝に継続して行うことは現実的に難しい。そこで我々は、自動録音機を用いた鳥類のモニタリング調査を進めている。現在、得られた音声データから鳥類の鳴き声を検出する方法を検討中である。今回は音声解析ソフトを用いて、アカヒゲの鳴き声検出を試みた結果について報告したい。自動録音機は2月から6月の期間に、奄美大島の役勝川流域の森林内の林齢(41-60年生と101年生以上)と地形(尾根と谷)の異なる6地点に設置した。録音時間は週2回、日の出後1時間とした。アカヒゲの鳴き声は調査期間中確認され、101年生の尾根で高頻度の傾向がみられた。

716 奄美大島における自動録音機を用いた夜間の鳥類モニタリング
〇榮村奈緒子(鹿大農),池田裕作,村中智明,畑邦彦,藤田志歩,鵜川信 固有種を含む多くの希少な鳥類が生息している奄美大島では、2021年に世界自然遺産に登録され、この普遍的価値を維持するためにモニタリングの必要性がますます高まっている。我々は奄美大島の国立公園内にある役勝川流域の森林において、鳥類の長期的なモニタリングを行うために、2021年2月から自動録音調査を進めている。今回は予備調査として、2月から6月の夜間に取得した音声データを用いて、鳥類の鳴き声検出を行った結果を報告する。自動録音機は林齢(41-60年生と101年生以上)と地形(谷と尾根)の異なる林内の6地点に設置して、日没30分後から30分間の音声を含むように週1回録音した。鳥類の鳴き声は音声解析ソフトを用いて自動検出した。その結果、リュウキュウコノハズクやオオトラツグミなどの鳴き声が検出され、これらの鳥類の鳴き声頻度は全体的に101年生以上の林齢の尾根で多い傾向がみられた。

717 光環境が外来植物オウゴンカズラの再生能力に与える影響
〇蜂須賀莉子(鹿大農),鵜川信 世界自然遺産に登録された徳之島には、多くの固有種・希少種が生息しており、生態系のホットスポットとして注目されている。しかし、近年、人間の手によって持ち込まれた外来植物によって固有種の存続が危ぶまれている。特に、ソロモン諸島原産のつる性多年草であるオウゴンカズラは、大きな葉をつけることで、他の植物から光資源を奪い、成長を阻害している。また、再生能力が高いため、一度駆除を行った場所でも再生し、その繁殖が確認されている。しかし、オウゴンカズラの野生個体は、主に光が弱い場所に生息しているものが多く見受けられる。そこで、本研究では、光環境にともなう外来植物オウゴンカズラの再生能力の変化を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、光環境の異なる林内、林縁、裸地にオウゴンカズラの植物片を設置することで光環境と再生能力の関係を評価した。本発表ではその結果を報告する。

718 沖縄島北部やんばる地域の約70年生二次林における樹洞の形成
〇泉川太志(琉大農),高嶋敦史 沖縄島北部やんばる地域の森林には、樹洞を利用する希少種等が生息している。希少種等が利用するような大型樹洞は老齢林で高密度に発生しているが、そのような老齢林は限定的にしか残されていない。そこで本研究では、やんばる地域の老齢林の周囲に広がる約70年生の二次林において、深さ10cm以上の樹洞の発生状況の調査を行い、老齢林で行われた先行研究との比較を行った。その結果、本二次林ではイタジイの樹洞発生率が最も高くなっていた。一方で、老齢林で樹洞発生率が高かったイスノキの幹はわずかしか記録されず、樹洞も記録されなかった。イジュは老齢林の先行研究では樹洞のある幹は記録されなかったが、本二次林では少数の樹洞が確認された。全種合計の樹洞保有幹本数密度は老齢林のものよりも低い結果となった。このことから、やんばる地域の約70年生の二次林では、老齢林と比較して、樹洞の資源量は大幅に少ない可能性が考えられた。

719 沖縄島北部,奄美大島,徳之島における鳥類の繁殖分布と世界自然遺産のゾーニング
〇小高信彦(森林総研九州),赤井慎太,東竜一郎,石原鈴也,川口秀美,木元侑菜,久高将洋,迫田拓,関伸一,渡久地豊,鳥飼久裕,永井弓子,平城達哉,寛山一郎,水田拓,八木橋勉,山室一樹 世界自然遺産に登録された中琉球の沖縄島北部、奄美大島、徳之島において、沖縄島固有のノグチゲラ・ヤンバルクイナ・ホントウアカヒゲ、奄美群島固有のルリカケス・オーストンオオアカゲラ・オオトラツグミ、希少種のアカヒゲ、老齢林の指標種とされるリュウキュウキビタキなどを含む繁殖鳥類分布調査を行った。遺産登録地、緩衝地帯、周辺管理地域の3区分のゾーニングと普通種を含む各種の繁殖分布の関係について解析した結果、厳正な保護が担保される遺産登録地内には希少な鳥類が複数種生息する重要な生息地の割合が高かった。一方、緩衝地帯や周辺管理地域にも希少な鳥類の生息地が見られたことなどから、遺産登録地以外の保全上の配慮が望まれる地域について検討した。

720 野外で放置されたシカ糞を用いた遺伝解析による個体識別は,排便後何日まで可能であるか?
〇金谷整一(森林総研九州),大谷達也 日本各地でニホンジカによる林業被害や森林生態系への影響が大きな問題となっている。これらの被害を低減させるには個体数の適切な管理が重要であり,そのためには対象地のシカ個体数を正確に推定する必要がある。近年,フン粒表面から抽出したDNAによる個体識別が可能となり,個体数推定に応用できるようになってきた。しかし,野外で採取でしたフン粒の場合,DNAの劣化等により個体識別が困難な場合も報告されている。そこで本報告では一個体から採取した直腸フンを野外に実験的に曝し,DNA抽出や遺伝解析の可否を経時的に検討した。

721 土壌浸食による土壌微生物相とそれらの機能面への影響?九州大学宮崎演習林内2ヶ所での予備解析結果?
○徳本雄史(宮大推),小山田美森,片山歩美 九州中央部に広がる落葉広葉樹林帯では、鹿による食害などで下層植生が消失した荒廃した森林が広がっている。下層植生が失われると、雨滴が直接土壌表層に作用し、表層土壌の侵食や樹木の根の露出が起きるなど、森林生態系全体がより劣化していく。この生態系が改変されていくプロセスにおいて、生育環境の変化や生物多様性の減少が報告されているものの、土壌微生物相とそれらの機能面の変化については研究事例が少ない。そこで、土壌侵食が土壌微生物相に及ぼす影響を明らかにすることを目的として調査を開始した。調査地は九州大学宮崎演習林(宮崎県東臼杵郡椎葉村)内の2サイトで、各サイトで根が露出している周辺土壌と、していない土壌を採取し、土壌微生物相とその機能を比較解析している。本発表では、土壌浸食によってどのような微生物群や機能面が変化しているのかといった解析結果の途中経過について報告する。

722 下層植生がノウサギの生息密度に与える影響
中川恵翔(宮大農),平田令子,伊藤哲 ノウサギは植栽したスギ苗の枝や針葉、主軸を採食し、苗木の成長阻害や、枯死を引き起こす。ノウサギによる採食被害を防ぐためには、ノウサギの生息密度や生息密度に影響を与える要因を明らかにすることが重要となる。ノウサギの生息密度は餌となる下層植生が多い林分ほど高くなる傾向にあるが、下層植生が少なくても密度が高い場合があることが既往研究により示されており、下層植生以外の要因もかかわっていると考えられる。そこで本発表では、下層植生量や植生タイプが異なる3~4つの林分においてノウサギの生息密度を推定し、生息密度に影響を与える要因を明らかにすることを目的とした。調査は2021年8月~10月に宮崎大学農学部田野フィールドで行った。各調査地に10m間隔で16~18カ所の調査点を設置し、2m×2mの方形区内の糞の数を記録した。生息密度は、糞粒法により算出した。本発表では下層植生のほか林齢や傾斜と生息密度の関係を検討した結果を報告する。