801 綾リサーチサイトにおける常緑広葉樹枯死木の分解に伴う木質成分濃度変化
〇酒井佳美(森林総研九州),石塚成宏 枯死木は分解が進むにつれて重量減少し主要木質成分濃度(リグニン、ホロセルロース等)が変化する。この分解過程における成分濃度変化は森林生態系の炭素蓄積変化量に寄与し、その解明に必要な実測データの蓄積が求められる。わが国では広葉樹のデータが少ないため、本研究では常緑広葉樹林である綾リサーチサイトにおいて枯死後の経過年数と樹種の判別が可能な倒木を対象に化学成分濃度を調べた。枯死後の経過年数が1~13年の5樹種、計21個体の材密度は0.11~ 0.60 g/cm3 、倒木の樹皮を除いた材部分のクラーソンリグニン濃度は24.0~53.3 %の範囲にあり、材密度の低下に伴いクラーソンリグニン濃度は高くなる傾向であった。抽出成分濃度は0.7~4.5 %の範囲となったが、材密度との関係は認められなかった。

802 徳之島の原生的森林における地形にそった群落構造の変化
○鵜川信(鹿大農),阿南晃樹 世界自然遺産として登録された徳之島の森林には、当該地域の固有種が数多く生息する。これら森林の群落構造の不均一性は、固有種に提供される生息空間の複雑さを示し、その成立メカニズムの解明は、当該地域の生態系および生物多様性の維持に基礎的な知見を提供する。そこで、本研究では、徳之島の原生的森林において、地形にそった群落構造の変化を明らかにすることを目的とし、徳之島三京岳国有林に設置した4haプロットにおいて毎木調査を行った。得られたデータから、尾根、斜面、谷の地形ごとに、群落構造の差異を解析したところ、尾根ではサイズの大きな個体が高い密度で存在し、谷ではサイズの小さな個体が低い密度で存在することが明らかとなった。さらに、尾根と谷では樹木個体のターンオーバーに差がみられ、攪乱のタイプ(風倒攪乱と地表変動攪乱)によって尾根と谷で異なる群落が成立する可能性が示唆された。

803 九州南部のブナ衰退とその要因としての土壌侵食の検討
○阿部隼人(九大農),小山田美森,久米朋宣,片山歩美 シカの植生採食によって2003年までに大部分の林床が裸地化し、深刻な土壌侵食被害にある九州大学農学部付属宮崎演習林のブナを対象に、樹木の衰退と土壌侵食との関係を調べた。衰退量は基底面積成長量(BAI)とリターフォール量によって評価し、土壌侵食量は侵食によって露出した根の高さ(根系露出量)を指標とした。これらを、目視で判定した枝葉の欠損が目立つブナ(衰退木)と健全なブナ(健全木)で比較した。衰退木のBAIは1937~2000年まで健全木と差がなかったが、2000年以降から漸次減少した。2020年の衰退木のリターフォール量は健全木に比べ少なかった。根系露出量は衰退木が健全木よりも大きかった。また、根系露出量が多いブナほどBAIやリターフォール量が低い傾向にあった。このことから、衰退木のBAIとリターフォール量の低下要因として、土壌侵食に伴い根系が露出することで枯死し、地下部資源の吸収阻害が生じている可能性が示唆された。

804 土壌環境にともなうスギの細根特性の変化は品種間で異なるか?
○清野浩人(鹿大農),鵜川信,榎木勉,石井弘明 土壌資源の獲得を担う細根は、土壌環境と深く関係しており、1つの樹種でも、長さや分枝数、太さといった細根の形態が土壌因子にともない変化する。さらに、細根の形態は、樹木の養分吸収と、それにともなう成長速度に影響する。このことは、日本を代表する造林樹種のスギに対しても同様と考えられ、土壌環境によって細根の形態が変化している可能性がある。さらに、土壌環境にともなう成長量の変化がスギ品種間で異なることから、土壌環境による細根形態の変化の程度も品種間で異なる可能性が指摘できる。本研究では、各スギ品種において、土壌環境が細根特性にどのような影響を与えるかを明らかにし、さらに品種間で比較することを目的とした。この目的を達成するために、鹿児島大学農学部附属演習林に植栽されている6品種のスギについて、斜面位置にともなう細根形態の変化を明らかにした。本発表ではその結果を紹介する。

805 早生樹の成長に対する施肥の影響に関する文献レビュー
〇森大喜(森林総研九州) 再造林の際の選択肢を増やすため、国内においても早生樹への関心が高まっている。早生樹林業は短期間で木材の伐採・収穫を行うため、土壌中の養分が木材として植林地の外に頻繁に持ち出される。そのため、土壌養分の管理がより重要になる可能性がある。本発表では、施肥が早生樹4樹種(コウヨウザン、センダン、ユリノキおよびチャンチンモドキ)の成長に及ぼす影響について報告した海外の文献を収集し、レビューを行った。

901 NDVIカメラによる非破壊的な樹木葉の水分状態推定
〇渡邉涼介(九大生資環),作田耕太郎,舟戸陽介 NDVI(正規化植生指標)は植物の葉群が反射する光のうち、赤色光と近赤色光を捉えることで得られる指標であり、植物群落の分布や作物栽培における養分状態の把握などへ応用されている。本研究では、樹木個体あるいは緑地や森林などの適切な管理の上で重要となる樹冠の水分状態の非破壊的な把握に資することを目的として、NDVI画像の撮影に特化したカメラ(NDVIカメラ)による樹木単葉のNDVI値とそのときの相対含水率との関係性について解析を行った。材料として常緑の針葉樹と広葉樹および落葉広葉樹の計6樹種を選定し,1生育期間での関係性を得た。飽水させた単葉の相対含水率の低下にともなって、NDVIの値は一定、もしくは徐々に低下するという変化を示し、ある特定の値以降は急激に下降するという関係性にあった。飽水時のNDVI値や、NDVI値の急激な下降が発生する相対含水率は樹種や季節ごとに異なることが明らかとなった。