401 | 用土を使わない挿し木(エア挿し)における大気湿度と発根の関係 |
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○伊藤哲,柴田康太郎,栗田学,福田有樹,久保田正裕,長倉良守,平田令子,渡辺敦史 | 用土を使わずに挿し穂から発根させる技術(通称「エア挿し」)は、空中に露出した挿し穂に適切な散水を行うことで発根を誘導する手法である。そのため、従来の挿し木方法と異なり、散水条件や大気湿度次第では穂全体の乾燥が起きうる。一方、大気湿度を100%に保持すれば、挿し穂の乾燥による水ストレスを回避し発根を促進できる可能性がある。そこで本研究では、小型のビニール室を用いて密閉環境と換気窓を設置した解放環境を設定し、その内部でエア挿しの実験を行った。その結果、発根は解放環境でむしろ旺盛であり、密閉環境では発根率が有意に低かった。また、密閉環境では平均根量が少なく、逆に針葉の展開(枝の伸長)が顕著に観察された。以上の結果から、弱度の水ストレスが根を持たない挿し穂の発根に関与していることが推察された。なお、本研究の一部は、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行った。 |
402 | 異なる湿度環境で発根させたエア挿しおよびコンテナ直挿し穂の発根と樹勢変化 |
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○柴田康太郎,伊藤哲,栗田学,福田有樹,久保田正裕,長倉良守,平田令子,渡辺敦史 | 用土を使わずに空中で挿し穂から発根させる技術(通称「エア挿し」)は、発根状態を視覚的に認識することができ、移植時期を判断することができる。しかし、発根時の湿度環境の違いが発根率や発根量及びコンテナ移植後の樹勢変化に及ぼす影響については、十分に明らかになっていない。そこで本研究では、小型のビニール室による密閉環境と,同じビニール室に換気窓を設置した解放環境の2つの条件下でエア挿し及びコンテナ直挿しの実験を行い、挿しつけ後の発根過程とコンテナ移植後の温室内での樹勢の変化を調査した。その結果、解放条件で発根状態が良く、コンテナへの移植後も樹勢が良好に保たれることが確認された。これに対して密閉環境では発根率が低く、移植後3週間程度で樹勢が著しく悪化した。以上の結果から、挿し穂を適度に乾燥させることで発根が促進されること、および移植後の水ストレスに対する耐性が得られると推察された。 |
403 | コウヨウザン直ざし造林の可能性について |
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○上杉基(宮崎県林技セ) | コウヨウザンは初期成長が旺盛で萌芽更新が可能であることから、近年、苗木生産や植栽が増えてきている。しかし、植栽後のノウサギによる食害が多いことが課題であり、対策として、防護柵・単木保護資材の設置や大苗の植栽が有効であると考えられるが、いずれもコスト高になる。そこで、大型のさし穂を直ざしする簡便な手法を試みた。予備試験として、令和2年度に5年生母樹の根元や断幹部から垂直に伸びた萌芽枝を採穂し、50cm程度に調整して畑にさしつけ、5割以上の発根を確認した。令和3年度は、5月中旬、平均85cm程度の大型穂を林地にさしつけ、活着状況やノウサギによる食害状況を調査した。 |
404 | スギ特定母樹「県姶良20号」を用いた直挿し造林の検討 |
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○穂山浩平(鹿森技セ),永吉健作,平生貴成 | スギ直挿し造林とは,穂を直接林地に挿し付けて成林させる方法であり,鹿児島県では藩政時代に発根性のよいメアサ系の穂を用いた直挿し造林が行われていたが,直挿し造林は立地や自然条件の影響を受けやすいこともあり,現在は裸苗やコンテナ苗を用いた造林が主流となっている。しかしながら,直挿し造林は苗木づくりが不要であり,穂を直接挿し付けて成林させるという極めて省力的な造林技術であることから,再造林の課題のひとつである低コスト化にも寄与するものと考えられる。近年,スギについては,花粉症対策や育林の低コスト化に資する品種の選択が重要視されており,それら品種のコンテナ苗を用いた造林に関する研究は広く行われているものの,直挿し造林に関する研究は行われていない。そこで,特定母樹に指定されている少花粉スギ品種「県姶良20号」を用いた直挿し造林を試みたので,その結果を報告する。 |
405 | スギ特定母樹の育苗における冬季の施肥量と植栽後の初期成長の関係 |
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○比江島尚真(鹿大),赤木功,大塚次郎,久保田正裕,鵜川信 | 近年、林業現場ではエリートツリーを含む特定母樹の導入が進められている。これによって、下刈作業が省力化されることが期待されているが、植栽後の初期成長がさらに加速されれば、下刈り作業の低コスト化が着実に進むと考えられる。初期成長を加速させる方法の一つとして、欧米のコンテナ苗育苗では、秋季から冬季にかけての追肥が試みられている。そこで、本研究ではスギ特定母樹系統のコンテナ苗の育苗期間における冬季の施肥量が植栽後の初期成長に与える影響を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、2品種間(九育2-203, 高岡署1号)において冬季に施した施肥量にともなう貯蔵養分量の変化および植栽後の初期成長量の変化を調べた。本研究がスギ特定母樹系統のコンテナ苗生産の施肥体系の改良に寄与すれば幸いである。本研究は、農林水産省委託プロジェクト「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」の支援を受けて行った。 |
406 | スギ在来品種,特定母樹,エリートツリーの初期成長 |
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○松本純(農研林業),青田勝 | 大分県では①施業の省力化②植栽本数の低密度化③施業の分散化④施業回数の削減・短縮化を基本方針として、造林や育林施業の低コスト化を進めている。その一環として令和2年2月に在来品種、特定母樹、エリートツリーを含む多様な品種のスギを異なる植栽密度で植栽した試験地を造成した。今回、当該試験地における成長について経過を報告する。 |
407 | ススキ型植生下での被圧がスギ特定母樹中苗の植栽後3年間の成長に及ぼす影響 |
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〇原谷日菜(宮大農),山岸極,伊藤哲,山川博美,平田令子 | 特定母樹中苗は初期成長に優れ苗高が高いため、植栽後の下刈り回数の削減が期待されている。ただし、葉が密生し強く植栽木を被圧するススキが優占する場合は、下刈りの省略が特に困難である可能性がある。本研究ではススキ型植生の再造林地に成長の優れた特定母樹中苗を植栽し、計測した植栽木の成長と雑草木との競合状態から下刈り省略の可能性を検討することを目的とした。演者らは2019年3月に、ススキが優占する林地に特定母樹(県姶良20号)の裸中苗(形状比80前後)を植栽し、通常下刈り区と無下刈り区を設定して苗の成長と競合植生を調査してきた。3年目(2021年)の7月までの結果では、通常下刈り区のスギ樹高および直径は無下刈り区よりも高い傾向があり、下刈り省略による苗の成長低下が見られた。本講演では植栽から2021年秋までの植栽木の成長と競合植生との競合状態を解析した結果を報告する。 |
408 | 無下刈り処理5年目のスギ特定母樹コンテナ中苗の成長と競合状態 |
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○平田令子(宮大農),山岸極,伊藤哲,山川博美,釜稔,大寺義宏 | 下刈り省略は低コストで再造林を行う上で重要である。演者らは2017年より、成長の早い特定母樹(県姶良20号)で苗長が普通苗より大きいスギコンテナ中苗(挿し木苗)を用いた下刈り省略の可能性を調査してきた。その結果、植栽4年目において、無下刈り処理区では落葉低木との競合はある程度脱したが、落葉小高木による被圧を受け始めており、今後の成長への影響が懸念された。そこで本発表では、植栽5年目の中苗の成長と競合状態を調査し、落葉小高木による被圧状況とその影響について中間報告をする。調査は2021年7月に、熊本県の西浦国有林で行った。無下刈り処理区において、2020年の生育期末時点では61%の個体が落葉小高木による被圧を受けており、2021年7月時点では75%に増加した。しかし、樹高については大きな成長低下は見られなかった。現時点では競合植生が落葉低木から落葉小高木へ変わったことによる樹高成長への大きな影響はないと考えられた。 |
409 | 下刈り省略試験地におけるスギ特定母樹コンテナ中苗の植栽後3年間の成長の系統間差 |
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〇森脇佑太(宮大農),山岸極,伊藤哲,山川博美,平田令子,釜稔,大寺義宏 | 近年、造林コスト縮減の方策の一つとして、下刈り回数の削減が注目されている。下刈り省略の前提として、植栽木が生育過程で競合植生との競争に対して優位性を保ち、健全に生育する必要がある。しかし、特定母樹等の成長に優れた系統が下刈り省略にどのように反応するかについては未知の部分が多い。演者らは、2019年1月に特定母樹4系統(県姶良3、4、20号および高岡署1号)と在来品種(タノアカ)の中苗を植栽し、通常下刈り区および下刈り省略区を設定して継続調査を行ってきた。2021年夏季の時点では、いずれの系統でも1年目下刈り省略処理に比べて2年目下刈り省略処理で植栽木の成長が良好となる傾向があり、特に樹長成長でその傾向は顕著であった。さらに供試した特定母樹4系統の中では、県姶良3号が樹長・直径成長の面で最も優れていた。講演では、2021年秋季までの調査結果に基づく分析結果を報告する。 |
410 | 下刈り回数と立地環境の違いによる競合植生の変化 |
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〇松尾崇仁,山岸極,伊藤哲,山川博美,平田令子,釜稔,大寺義宏 | 低コスト再造林を目的した下刈り省略においては、競合植生のタイプや再生力が下刈り要否の判断の際の重要な情報となる。これまで、下刈りを繰り返すことにより、競合植生の種組成が変化することは経験的に知られているが、その実態は十分には解明されていない。また、競合植生の再生高は下刈りを繰り返すことによって変化するとされるが、これらの知見は一部の植物種に限られている。そこで、異なる立地および下刈りスケジュールが競合植生の種組成や再生高に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、宮崎県日南市の小松国有林で実施されている下刈り省略試験地の競合植生および植栽木の被圧度を調査した。その結果、下刈り回数の多いプロットほどススキの優占度が高くなる傾向が認めれた。本講演では、植栽後3年目秋までの調査を基に分析した結果を報告する。 |
411 | UAV空撮による造林地の雑草木群落高の推定に及ぼす撮影高度の影響 |
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○山川博美(森林総研九州),穂山浩平,武津英太郎 | 再造林コストを削減するため、最適な下刈り回数の提示が課題となっている。そのなかで,植栽木と雑草木との競争関係を解析し,競争関係から下刈り要否を判定することが検討されている。しかしながら,雑草木の樹高は種類や地形などによって林分のなかでバラツキがあり,林分としての下刈り要否を判定する際には,林分内における雑草木の高さの分布を把握する必要がある。そこで,本研究では,UAV空撮から得られたDSM(数値表面モデル)を用いて,若齢造林地での雑草木の群落高を面的に推定した。その結果,飛行高度が群落高の推定精度に強く影響を及ぼしていた。本稿では,これらの結果に基づき,若齢造林地でのUAVによる雑草木の群落高推定の可能性について報告する。 |
412 | 円形密度試験地における植栽密度の違いがスギ樹冠サイズに与える影響 |
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○山岸極(宮大農),伊藤哲,光田靖,山川博美,平田令子 | 近年、我が国では育林コストの削減を目的とし、植栽本数を従来の2500~3000本/haから減らす低密度植栽が試行されている。ただし、植栽密度の低下は林冠閉鎖を遅延させ、雑草木の繁茂を促すとともに下刈りや除伐コストを増加させることが懸念される。本研究では、円形密度試験地において計測された各植栽木の樹冠サイズデータから植栽密度と樹冠サイズの関係を解析し、林冠の閉鎖林齢を推定することを目的とした。演者らは、1974年に宮崎県大荷田国有林に設定されたネルダー式の円形密度試験地(植栽密度376~10000本/ha)で計測された樹冠サイズ、樹高、直径データを用いて、解析を行った。1haあたり1個体の樹冠が占有可能な平均面積を植栽密度から、各個体の樹冠占有面積を計測した樹冠幅から算出し、これらを比較した。その結果、4823~10000本/haの各平均植栽密度が占有可能面積を上回ったことから、12年生時にはこれらの密度ですでに林冠が閉鎖していたと考えられた。 |
413 | 人工林の部分伐採後に植栽された落葉広葉樹4種の苗に対するニホンジカおよびニホンノウサギの食害状況 |
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〇羽田珠里(宮大農),伊藤哲,平田令子,山岸極 | 集水域レベルで水土保全や生物多様性の維持・修復には、人工林化された渓畔林の広葉樹林化が有効であると考えられる。人工林の部分伐採と植栽導入により広葉樹林化を図る場合、植栽木に対する食害回避が重要な課題となる。そこで本研究では、植栽広葉樹苗に対するニホンジカおよびノウサギの各樹種における食害傾向を把握することを目的とした。渓畔域のスギ人工林で部分伐採を行った後に水辺林構成種(ケヤキ、エノキ、ハルニレ、ムクノキ等)の苗を試験植栽し、2年後に食害痕(ニホンジカおよびノウサギの採食痕)の高さと直径を計測した。その結果、ニホンジカは樹種ごとに食害の高さ範囲が異なり、ノウサギは70㎝以下の高さ範囲で主に食害を与えていた。また、ノウサギによる食害率はムクノキで他の樹種より高かった。また、動物種によって採食する枝・幹直径に差があることが明らかとなった。 |
414 | 奄美大島におけるスギ人工林の林分構造とその特徴 |
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○畠中雅之(鹿森技セ),片野田逸朗 | 奄美大島には多くの固有種や絶滅危惧種が生息し、独特の生物相や生態系が形成されていることから、令和3年7月に徳之島及び沖縄県北部、西表島と共に世界自然遺産への登録が決定された。奄美大島における登録区域は、本土中部から南部の脊梁山地に広がるスダジイを主体とした広葉樹林地帯であるが、スギ人工林もその中に点在している。このようなスギ人工林は厳しく伐採が制限されているため、伐採せずにそのまま管理していくことになるが、その林分構造や種組成を把握することは、世界自然遺産登録後のスギ人工林の管理方法を検討する上で極めて重要である。そこで、奄美大島の世界自然遺産登録区域やその周辺のスギ人工林と広葉樹林を対象に植生調査を行い、その林分構造や種組成を調べたので、その結果について報告する。 |
415 | リュウキュウマツ人工林の間に残された保護樹帯の林分構造 |
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〇兼城華鈴(琉大農),高嶋敦史 | 沖縄島北部では伐採地の種子供給源,防風効果,動物の避難経路などとして尾根部に樹林帯を保全することが推奨されているが,具体的な設定幅は示されていない。そこで本研究では,約50年生のリュウキュウマツ人工林の間に残された幅9-16mの保護樹帯の現状を調査し,その幅が十分であったかどうか検証した。尾根部のリュウキュウマツ人工林に挟まれた保護樹帯を横断するよう調査区を設定した。保護樹帯内で人工林の林縁から4.5m以上内側に保護樹帯設定以前から生残していると考えられた胸高直径47cm以上のイタジイが複数記録されたことから,保護樹帯内で大径木が形成される環境は維持されていたと考えられた。しかしながら,リュウキュウマツ人工林に多くみられる侵入種が保護樹帯内にも一定量記録されたことや,周辺の天然生林に出現する遷移後期種が全く記録されなかったことから,本研究の保護樹帯幅では両側の人工林の影響が中央部まで及ぶものと考えられた。 |
416 | リュウキュウマツ人工林の帯状伐採前と伐採8年後における更新木の種組成 |
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〇新関一心(琉球大農),谷口真吾,松本一穂 | 沖縄島北部に成林する45年生リュウキュウマツ人工造林において,等高線方向に林冠を構成する上層木樹高の1.0~1.5倍幅で帯状伐採した。収穫木を搬出した1年後,イジュを植樹造林して7成長期が経過した造林地の伐採から8年後における更新木の種組成を比較した。調査は,帯状伐採前の林分に毎木調査を実施した場所と同一の場所に調査プロットを設定した。プロット内に成立するすべての植栽木の樹高,胸高直径などを計測した。その結果,伐採前に成立していた樹種は植栽木を含め14種,帯状伐採か8年後の更新樹種は植栽木を含め21種であった。種組成を比較すると,伐採前後に確認された同一樹種は2種であった。伐採前の林分構成種は萌芽力の強い遷移後期種が多くを占め,伐採8年後までに更新した樹種は,その大半が萌芽力の強い周食(鳥)散布型の種子を有する樹種が多くを占める傾向であった。本発表では,伐採前後の更新樹種の種組成に差異が生じた要因を考察する。 |
417 | 音羽山センダンの生育状況及び保育実証(その1) |
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〇山形良平(九州局技セン),草野秀雄,大寺義宏,西林寺隆 | 宮崎北部森林管理署管内の音羽山国有林(2く林小班)では、平成29年にセンダン等を植栽し人工林として生育しているところ、当該国有林ではセンダンの天然更新が旺盛で、植栽地内に混交して生育し、また、部分的に群生している個所がある。このように多様な形で生育しているセンダンの植栽木及び天然更新木の今後の成長状況を確認するとともに、試行的に保育作業を行い、その効果を実証することとしており、経過を報告する。 |
418 | 沖縄島やんばる地域の二次林におけるイヌマキの成長と更新様式 |
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○高嶋敦史(琉大農),名取拓海 | 沖縄島やんばる地域の70年生前後と推定される二次林で、尾根付近に設けられた20m四方の固定試験地を使用し、一級建築材のイヌマキの成長量や更新様式を調査した。固定試験地では、2001年と2020年に胸高直径(DBH)4cm以上の幹の調査が実施され、2020年のイヌマキの最大DBHは18.9cmであった。期間を通じて生存していた11本のイヌマキの年平均DBH成長量は0.12cmであったが、最大で0.25cmの幹も存在した。沖縄島のイヌマキは、キオビエダシャクによる葉の食害が大きな問題となっているが、根元付近で折れて枯死した幹もあり、台風による強風も樹勢低下や枯損に繋がる大きな要因であると考えられた。また、イヌマキの実生や稚樹についても調査したところ、実生は試験地内の2箇所に集中して分布していた。それらの中心には、母樹として機能した可能性があるイヌマキが存在したことから、従来知られている鳥散布に加え、重力散布による更新も多く起きているのではないかと考えられた。 |
419 | 三郡山系の低標高域におけるブナ混交林の林分特性 |
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〇舟戸陽介(九大生資環),作田耕太郎,金谷整一 | ブナは鹿児島県の高隅山系を南限とし、北海道の黒松内低地まで日本全国に分布している。しかし、気候変動に伴う分布域変化のシミュレーションでは、平均気温の上昇に起因して今後のブナ分布域の減少が予測され、特に低緯度に位置する九州地方におけるブナの分布域は比較的早期に影響を受けると考えられる。従来、九州地方でのブナの分布は標高700m以上とされている。しかしながら、福岡市近郊に位置する三郡山系では、700mより低い標高域でもブナが分布していることがごく最近確認された。本研究では、これまでの研究事例が非常に少ない三郡山系のブナの現状を把握することを目的とした。まず、文献調査を行うことで九州地方におけるブナの分布標高を明確化した。加えて三郡山系の低標高域に存在するブナ混交林の林分構造について調査を行い、山頂付近と比較することにより、低標高域のブナ混交林の樹種構成やサイズ構造の特性を明らかにした。 |
420 | 九州のカスミザクラの分布について |
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〇勝木俊雄(森林総研九州) | バラ科サクラ属のカスミザクラ(Cerasus leveilleana)は、北海道から四国のほか、韓国や中国などにも広範囲に分布する種である。ところが九州の分布については、まったく分布しないとする文献から、鹿児島以外には分布するとする文献まで、大きな違いが見られる。そこで、改めて文献資料を精査するとともに、標本庫および現地調査をおこない、九州のカスミザクラの分布について検討した。その結果、多くの場所でカスミザクラの他、オオヤマザクラやオオシマザクラなどの植栽あるいは野生化個体を確認した。その中で、大分県別府市・九重町、熊本県相良村などでは、複数個体が二次林に見られ、野生集団と推定された。ただし、いずれのカスミザクラの集団も極めて個体数が少なく、本来の自生集団であるのか、詳細に検討する必要があると考えられた。 |
421 | 2018年の紫尾山におけるブナの種子生産状況 |
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○田畑駿也(九州森林管理局),緒方琴音,小薄政弘,前田三文,古市真二郎,金谷整一 | ブナの南限域である紫尾山(標高1,067m)の一部は、「紫尾山ブナ等遺伝資源希少個体群保護林」となっている。当該地を所管する北薩森林管理署では、これまでにブナ林保全のため、全生残木の分布調査や植生保護柵の設置を進めてきたが、種子生産状況は把握していなかった。そうした中、2018年、多くのブナが着花していたことから、種子生産に関する調査を開始した。調査は、8月に標高795~1,059mに分布する母樹7本の周囲にシードトラップを3基設置し、12月中旬まで約10日間隔でトラップ内の種子を回収するとともに、充実種子を選別した後に発芽試験に供した。回収された種子数は137~842粒/㎡であり、標高等により明瞭な関係はなかった。充実率は2~20%であり、母樹周辺の着果個体数等と有意な関係があった。また、発芽率は僅か0.33%であった。以上から、紫尾山におけるブナ林の保全は、まず成木の維持管理が重要であり、併せて更新環境の整備が急務であると考えられた。 |
422 | ムクロジの種子発芽特性 |
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○片野田逸朗,畠中雅之,祁答院宥樹(鹿児島県森技センター) | ムクロジは,本州中部から琉球,東南アジア周辺に広く分布する落葉高木である。これまでの調査で,本種は斜面下部から谷部の開放下から被陰下までの様々な環境下で生育していたことから,このような地形における人工林を針広混交林化するための植栽樹種として適していると考えられているが,植栽樹種として普及させるには,苗木生産技術の確立が不可欠である。このため,実生育苗試験を実施してきたが,発芽率は2割程度と低く,なかには2年目に発芽する個体もみられた。そこで, 発芽率向上のため,播種前に種子を沸騰湯処理及び熱湯(70℃)処理,礫撹拌処理とサンドペーパーでの傷付け処理を行い,その後の各処理での発芽状況を調べたので,その結果について報告する。 |
423 | 英彦山周辺のスギ古木群の遺伝解析 |
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○弓削直樹(九大農),田村美帆,渡辺敦史 | 英彦山の周辺には鬼スギ、行者スギや英彦山山頂、神宮付近のスギ群落など巨木群がいくつか存在している。行者スギ群についてはスギが修験道沿いに存在していることなどからかつての行者達がスギの植栽を行ったと考えられている。そのほかのスギ群落についても基本的に人間によって植栽されたものであると考えられているがその由来の詳細については明らかにされていない。英彦山周辺のスギ巨木群は、九州内でも古い時期に植栽されたと考えられており、英彦山周辺スギ古木群の由来の解明は、天然林がないとされる九州スギの起源解明のきっかけになる可能性がある。本研究ではこれらスギ群落に対して現地調査を行い、樹高、DBH、位置情報を測定し、DNA分析用のサンプリングを行なった。さらにSSR分析を行い、九州スギ精英樹及び在来品種と比較することによって、英彦山周辺のスギ古木群の由来について考察した。 |