601 カケスによるマテバシイ堅果の持ち去り試験
○西鈴音(宮大農),平田令子,伊藤哲 カケスはブナ科樹木堅果の貯食行動から,二次散布者としての役割を持つと考えられる。しかし,この役割について研究した事例は極めて少ない。中西ら(2019)はネズミによるミズナラ堅果の持ち去り試験に関し,供試堅果での遺伝子撹乱を防ぐため,煮沸処理による発根能力消失実験を行った。その結果,全堅果が能力を消失し,ネズミによる持ち去りにも影響はなかったとした。そこで本試験では①煮沸処理によりマテバシイ堅果でも能力が消失するか,②煮沸堅果をカケスも持ち去るか検証することを目的とした。2022年5月に堅果を煮沸し,未処理堅果とともにコンテナに播種した。その後,温室で4ヶ月間,発芽状況を観察した。同年10月,林内に餌台を設置し,センサーカメラでカケスによる持ち去り状況を調べた。結果,発芽率は未処理:33%、煮沸処理:0%となり,処理後の発芽能力が消失した。本発表では堅果の持ち去り状況を処理間で比較した結果も報告する。

602 越冬前温度の降下速度がマツノマダラカミキリ蛹化に与える影響
○吉田成章(なし) 木村ほか(1975)はマツノマダラカミキリ幼虫に温度の降下速度を変えた条件で低温暴露し再加温後の蛹化日数を調査し,温度の降下速度の違いによる差はほとんど認められなかったとしている。この実験では5℃ずつ階段状に温度を下げていく方法がとられている。より自然に近い実験設定として,温度の日較差を6℃とし毎日0.2℃(A区),0.25℃(B区),0.3℃(C区)ずつ下げる3区を設けた。実験開始まで20℃を下回らない温度で飼育した。区毎に実験開始日をずらし,12月27日に14℃定温とし翌年2月27日に25℃で再加温した。結果,再加温後50%蛹化までの日数は40~50日であったが,各区の温度に誤差があることから差の解析できなかった。蛹化5%から95%までと5%から50%までの期間はそれぞれA区で57日と28日,B区で58日と23日,C区で35日と14日となった。A区とB区で5%から95%まで日数の差がなかったが,5%から50%まででは降下速度が急なほど短くなった。

603 スギ造林地で発生したノウサギ被害状況と防除方法の検討(Ⅱ)
○小田三保(宮崎県林技セ),井上万希 宮崎県内のスギ植栽地において,2019年1月にノウサギにより植栽木の約9割が主軸を切断される被害が確認された。県内においてこのような事例は近年報告されておらず,今後の防除方法を検討するため被害発生状況について調査し,既報告において,当地では冬期に被害が集中していること,主軸の切断被害は全体の約7割であったこと,切断部の直径は最大で7.5㎜であったことを報告している。今回は,その後約2年間の被害発生状況と,冬期の効果的な被害防除方法として忌避剤の散布時期による被害防除効果について検証したので報告する。

604 吹上浜の海岸クロマツ林における新梢の湾曲枯れ被害の発生及び関連する昆虫
○村瀬寿安(鹿大農),榮村奈緒子,畑邦彦 鹿児島県西部に位置する吹上浜の海岸クロマツ林は海岸防災林として保安林に指定されている重要な森林だが,演者らはこのクロマツ林の海岸沿いの前線部で,多数のクロマツ個体において新梢が激しく湾曲,枯損している場所が存在することを確認した。そこで,この被害の状況及び原因を明らかにするため,様々な状態のクロマツ新梢において生息する昆虫を被害状況と照らし合わせながら確認した。その結果,湾曲して枯れのみられる新梢にはしばしば何らかの昆虫によると見られる坑道が確認された。また,この坑道には多くの場合シンクイムシ類が確認された。このことから,この被害の原因としてシンクイムシ類の関与が考えられた。一方,この海岸林の前線部と林内では新梢で見られる昆虫の種数や個体数が大きく異なっており,前線部では林内よりいずれも大きくなる傾向が見られた。今後,この被害がその他の場所でも見られるか確認を行う予定である。

605 UAVのオルソ画像を活用した三里松原の整備・保全・管理
○石川大智(九州局),崎田朱里 三里松原(福岡県岡垣町,芦屋町)は約400haに及ぶ県内最大規模の松林で「日本の白砂青松百選」に選定されているが,平成21年度以降から松くい虫被害により多くのマツが枯損した。現在は松くい虫防除事業の強化により微害状態にあるものの,終息には至らず,継続した取組が必要となっている。このため,福岡森林管理署では毎年,薬剤散布,特別伐倒駆除,抵抗性マツの植栽等により三里松原の保全・再生に取り組んでいるが,延長が約5.5haにも及ぶ広大な面積であるため調査等に長期間を要している。 本発表では,業務の省力化を図るため,UAV(ドローン)及び画像解析ソフトを用いて三里松原全域のオルソ画像を作成し,植栽計画や松くい虫被害木調査に活用した事例を紹介する。加えて,汎用PCで操作可能なファイルサイズの小さいオルソ画像を作成するため,被害木の探索や植栽面積の計測にそれぞれ最低限必要な画像精度を調査した結果を報告する。

606 吹上浜海岸クロマツ林における地上性キノコの発生位置
○原田優作(鹿大農),榮村奈緒子,畑邦彦 本研究室では,吹上浜の海岸クロマツ林で地上性キノコの発生調査を週一回のペースで継続的に実施しているが,その際,個別の子実体の発生位置を地図上にプロットしている。今回は,この地図データを基に各種キノコの発生位置とそれに関連する要因について報告する。個別のキノコの発生位置については,キツネタケのように特定の林床環境に発生する傾向が見られているものや,ヒメコガネツルタケのように特定の場所に集中して発生しているもの,チチアワタケのように調査地全体に発生しているもの,ウラムラサキのように経時的に発生場所が変化したものなど,種によって発生傾向が異なった。一方,種間関係についても解析しており,アミタケとオウギタケのように発生場所が重なるものや,ショウロとコツチグリのように同じような林床環境に発生しても発生場所が重ならないものがあり,こちらも対象によって傾向が異なった。

607 吹上浜海岸クロマツ林における地上性キノコの発生に影響する気象条件
○畑邦彦(鹿大農),水田壮一郎,榮村奈緒子 演者らは2019年より鹿児島県吹上浜の海岸クロマツ林において地上性キノコの子実体発生の季節変化を調査し,気象条件と子実体発生の関係について解析を続けている。昨年の本大会では発生種数と降水日数及び平均気温との関係について報告したが,今回は更に調査と解析を継続した結果を報告する。キノコの発生種数と調査日前一定期間の気象条件の相関を見ると,調査日前2週間の降水日数が最も高い相関を示した。種数と調査日前2週間の降水日数の継時変化は,傾向が一致する期間が長かったが,冬季はあまり一致しなかった。種数と調査日前2週間の気象条件の散布図を見ると,降水日数では右肩上がりの傾向が見られたが,降水量では多くなり過ぎると種数が低下する傾向が見られた。平均気温では約22℃をピークとする山型の関係が見られたが,ピークより高温側では降水日数と共に種数が増加する傾向が見られたのに対し,低温側では不明瞭であった。

608 ノウサギの生息密度とスギおよびヒノキ植栽苗の採食被害の関係
○中川恵翔(宮大農),平田令子,伊藤哲 ノウサギによる採食被害は針葉樹の針葉や主軸を採食することから,最悪の場合植栽木の枯死につながり補植などのコスト増加や経営意欲低下を引き起こす。採食被害はノウサギの出現数と比例して増減するとされ,0.3頭/ha以上の生息密度で激害になるとの報告もある。ノウサギの生息密度について,演者らの昨年の研究では植生量が多く木本植物が優占した2年生スギ人工林で0.520頭/haの生息密度が確認されており,本研究では今年度の植生繁茂期の生息密度とスギの被害度を調査した。また,1年生スギ人工林・ヒノキ人工林でも新たに生息密度と植生量,被害度を調査し,植生量や植栽樹種などの違いがノウサギの生息密度や採食被害に与える影響について明らかにすることを目的とした。調査は2022年8月~10月で行った。生息密度は糞粒法から算出し,被害度は主軸切断・則枝切断・?皮切断の3タイプで分類した。これらの結果を基に生息密度と採食被害の関係を考察する。

609 立田山実験林内に植栽されているヤエクチナシで観察された害虫類
○金谷整一(森林総研九州),佐山勝彦,菊地琢斗,久原弥南,坂田萌美,田中晃征,本多優仁,矢田光麒,長友敬佑,小野智哉,戸田敬,高橋美里,福田秀夫,松永道雄 熊本市の立田山では,一重咲きのクチナシに混じって八重咲き個体(ヤエクチナシ)が自然分布することが1920年に発見され,その自生地が1929年に「立田山ヤエクチナシ自生地」として国指定天然記念物に指定された。その後は盗掘に加え,戦時中および戦後の伐採等による森林植生の急激な変化や盗掘により絶滅したと考えられていたが,1969年に1株が再発見された。この再発見された個体も盗掘等による消失で,それ以降,自生地における八重咲き個体の分布は確認されていない。森林総合研究所九州支所内には,1969年に再発見された株を由来とするさし木クローンを植栽・保全している。このヤエクチナシに対しては,オオスカシバの幼虫に因る被害が継続して生じているが,それ以外の害虫類による被害も観察された。そこで本報告では,将来的な保全に資するため,ヤエクチナシに対して被害を及ぼしている害虫類のリストを整理した。

610 シキミでみられる葉の退色症状-発生時期および拡大状況-
○川口エリ子(鹿森技セ),米森正悟 鹿児島県内のシキミ生産地において,葉が退色し落葉する被害が発生している。葉脈間の退色から始まり,やがて落葉する被害で,激しいものでは葉が全て落ち枯死してしまう。現在のところ原因は不明で,生産者は対応に苦慮している状況である。そこで,退色症状の原因解明を目的として,被害の発生時期,圃場内での被害木の分布や拡大状況の調査を行った。今回は,その結果を報告する。

611 ヒノキ人工林とスギ人工林におけるヤクシマランの生育状況の比較
○川﨑実椰(宮大農),平田令子,高木正博,伊藤哲 ヤクシマランは絶滅危惧ⅠB類(EN)に分類されている絶滅危惧種であり,宮崎県版レッドデータブック(2010)において照葉樹林内に生育していると記載がある。しかし,宮崎大学田野フィールドではヒノキ人工林で生育が確認され,2021年の調査では広葉樹が混交することでヒノキ人工林も代替的な生育場所として機能することが示された。一方で,スギ人工林での生育状況は調査されておらず不明である。スギ林とヒノキ林はリターの違いにより林床環境が異なることが知られており,地生ランであるヤクシマランの生育に影響するかもしれない。本発表では,田野フィールドのスギ人工林におけるヤクシマランの生育状況を調査し,スギ人工林がヤクシマランの生育場所として機能しているか明らかにすることを目的とした。林齢の異なるスギ人工林を4カ所選択し,ヤクシマランの個体数とサイズを記録した。発表では林種間での生育状況に影響を与える要因についても考察する。

612 自動撮影カメラを利用した野生動物の調査 -鹿児島大学高隈演習林における2013年から2019年までの結果-
○芦原誠一(鹿大農),榮村奈緒子 鹿児島県の大隅半島北部(垂水市)に位置する高隈演習林における野生動物の生息状況と,それに対して林業が及ぼす影響を評価することを目的として行っている研究のうち,2013年下半期から2019年上半期までの6年間の撮影結果をまとめた。本調査では,演習林内の3サイトで合計9台の自動撮影カメラを用い,給餌無し,期間中は基本的に休止なし,撮影位置の変更なしといった条件で現在も撮影を続けている。今回の成果として,前回調査(2008年7月から2011年6月までの3年間)で確認された哺乳類の10種すべてが再び撮影されたほか,新たにシカの生息を確認した。また,天然林の占有率が増すにつれて撮影頻度が高くなる動物種(イノシシ,アナグマ,イタチ,タヌキ,鳥類)と,そのような関係性が見いだせない種(ネズミ,ウサギ,テン,コウモリ)があることが,前回調査と同様に観察された。

613 長崎県対馬地域に生息するニホンジカの不嗜好性樹木について
○川本啓史郎(長農セ),溝口哲生 長崎県の対馬地域にはニホンジカ(以下,シカという)が生息しており,個体数の増加により森林や生態系に大きな影響を与えている。植栽地だけでなく,広葉樹の伐採跡地でもシカによる食害が起きており,森林の更新が進まないことが懸念される。そこで,対馬地域に適した不嗜好性樹木の評価を行うため,これまで県内で確認された6種の木本性植物を植栽した。今回は,植栽後1年目の被害状況等について報告する。