501 スギにおけるさし木発根部位に対するさし付け深さおよびワセリン塗布による影響
○福田有樹(森林総研林育セ九州),栗田学,渡辺敦史 さし木増殖は母樹と同一の遺伝子型を有する苗木を生産することができる。その得苗率の向上に向けて,穂からの発根の安定化・効率化が図られてきた。本研究ではその一環として,穂の地(水)上部と地(水)中部はもともと同じ部位であるにも関わらず,発根は地(水)中部で起こることに着目し,発根部位を制御する要因を解明するために,スギにおいて異なる深さでさし付けた場合および穂の地(水)中部の一部または全部にワセリンを塗布した場合における総発根数および発根部位を明らかにした。その結果,ワセリンを塗布していない場合,土ざしでは地中部全体で発根するものの,下部ほど発根本数が多かったが,水ざしでは水表面に近いほど発根本数が多く,水深10cm以上では,発根が確認されなかった。一方で,いずれのさし方においてもワセリンを塗布した部分からは発根しなかった。これらの結果から,発根部位を制御する要因について考察した。

502 コンテナ苗によるセンダンの枯れ下がり抑制試験
○大川雅史(福岡農林試資活セ),伊藤尚輝,片桐幸彦,朝野景 近年,短期間での利用が可能となる早生樹が注目されている。特にセンダンは成長が早く20年程度で収穫できることから,福岡県内家具業界からの期待も大きい。一方センダン植栽地において,梢端から根元に向かって苗が枯死する枯れ下がり事例が高頻度で確認されており,センダン利用を進める上での問題となっている。 そこで本研究では,枯れ下がりが植栽時の乾燥ストレスによるものとの仮説に基づき,乾燥に対する耐性が裸苗よりも高いコンテナ苗と裸苗の比較試験を行った。供試した苗は当センターで育苗したコンテナ苗(植栽時樹高30.4㎝)と,県内生産者から購入した裸苗(同114.4㎝)で,種子は同一箇所から同時期に採取したものである。植栽から15か月経過した時点で,枯れ下がりの発生率はコンテナ苗で0%,裸苗50%,樹高はコンテナ苗で365.8㎝,裸苗で304.0㎝であった。試験結果からは,枯れ下がり抑制にコンテナ苗が有効な手段であることが示唆された。

503 スギ特定母樹指定系統さし木コンテナ苗の植栽後3年間の形状比と樹高成長の関係
○大塚次郎(森林総研林育セ九州),園田美和,横尾謙一郎,久保田正裕,栗田学,後藤誠也,松永孝治,倉原雄二,福田有樹,岩泉正和,松永順,倉本哲嗣 再造林において,成長に係る特性の特に優れたものとして指定された特定母樹系統の苗木の利用が推進されている。とりわけ最近は,下刈りの省力化に繋がる初期成長の良い苗木が求められている。コンテナ苗を植栽した際の植栽初期の樹高成長は,苗木の形状比(苗高/地際直径)と関係があることが明らかとなっている。今回,第二世代精英樹(エリートツリー)を含む特定母樹系統のさし木コンテナ苗と在来スギさし木コンテナ苗を植栽した熊本県有林正千山団地(熊本県水俣市)の試験地における植栽後3年間の形状比の推移について系統比較を行った。あわせて,本試験地及び福岡県八女市に設定した試験地における各系統の植栽時のコンテナ苗木の形状比と樹高成長の関係の比較を行った結果について報告する。

504 九州スギ精英樹クローンにおける応力波伝播速度とピロディン貫入量の植栽後年次間での比較と早期評価の検討
○岩泉正和(森林総研林育セ九州),倉原雄二,福田有樹,松永孝治,高島有哉,松下通也,武津英太郎,倉本哲嗣 木材利用や炭素貯留の観点から,九州育種基本区ではスギさし木クローンの材質形質(樹幹剛性や材密度等)に関する育種ニーズが高まっている。材質形質は成熟材が形成されてから評価されることが多いが,若齢時と壮齢時の測定値に関連性があるならば,若齢時の評価に基づいて選抜を行うことで,材質育種のサイクルを短縮できる可能性がある。本研究では,植栽後年次の異なるスギ精英樹クローンを対象として,樹幹剛性と材密度の非破壊指標となる応力波伝播速度とピロディン貫入量を測定し,過去に評価された同一木での異なる測定年次間の比較や、年次の異なる植栽地間でのクローン性能の比較を行った。その結果,10,14年生と20,26年生の同一木,5~8年生と26年生での植栽地間で,クローンの上記材質形質にはそれぞれ高い正の相関が認められ,若齢時で20年生以上の年次とおおむね同様のクローン材質評価が検討可能なことが示唆された。

505 クロマツ採穂台木の樹齢がさし木発根性に及ぼす影響
○松永孝治(森林総研林育セ九州),大平峰子,倉原雄二,岩泉正和,福田有樹,久保田正裕 マツ類は一般にさし木発根性が悪いとされているが,若齢の台木から得られたさし穂や萌芽枝を用いたさし穂は発根率が相対的に高いことが知られている。近年,抵抗性クロマツで萌芽枝を用いたさし木苗生産が行われ始めているが,その採穂台木の利用可能な期間や管理に関する知見は十分ではない。ここでは植栽から20年間,剪定管理したクロマツ採穂台木の4~11クローンから,断続的にさし穂を採取し,発根性の推移を調べた。その結果,平均発根率は台木の加齢とともに低下し,20%以下になった。その一方で,40%程度の比較的高い発根率を維持するクローンが存在した。今回の結果は,発根性について未改良のクローンを用いた実験によって得られたものであるが,適切な台木の管理による萌芽枝の利用と,発根性に優れたクローンの選抜によって,クロマツの採穂台木は比較的長期間利用できる可能性を示唆している。

506 スギ特定母樹コンテナ苗の発根速度における品種間差
○加藤小梅(大分県林研),安部暖美 全国において,平成25年に改正された「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」(間伐等特措法)に基づき,森林のCO2吸収能力を高めるため,農林水産大臣が特に成長等に優れ花粉の量が一般的なスギ・ヒノキに比べて概ね半分以下のものを特定母樹として指定し,普及を図ることとしている。これを受け大分県では,特定母樹の活用に向けた取り組みを進めているところである。本研究では特定母樹品種間の特徴を把握するため,令和3年10月,令和4年2月にそれぞれ20cmのスギ特定母樹穂を用いたコンテナ苗(1品種あたり10本×3反復)を作成し,毎月1回,発根・苗高の調査を行った。その結果,特定母樹苗の発根速度において品種間差が認められた。

507 10年生スギクローンの心材含水率評価
○倉原雄二(森林総研林育セ九州),松永孝治,岩泉正和,福田有樹,久保田正裕 林木の育種を高速化するためには若齢時に形質を評価することが必要であるが,これまでのスギの心材含水率の測定事例の大半は20年生以上であり若齢での事例は非常に少ない。心材含水率を早期評価する上では,若齢時の心材形成状況や,若齢時と壮齢時での評価値の共通性といった知見や,心材含水率に関する適切な評価指標の検討が重要である。本研究ではこれらの知見を得るために,10年生のスギ第一世代精英樹4クローン73個体から成長錐コアを採取し,直径,心材形成の有無,心材含水率(乾量基準含水率と相対含水率)を測定し,21~26年生の同一クローンの測定値と比較した。その結果,比較的成長の良好であった本試験地では全調査個体で心材の形成が確認された。また,若齢で心材含水率の低いクローンはどちらの心材含水率の指標においても壮齢で心材含水率が低い傾向があった。

508 第2世代スギ精英樹の初期成長予測モデルの構築
○江島淳(佐賀林試) 佐賀県では,スギの第1世代精英樹同士を1960年代に人工交配し,その後選抜を重ね第2 世代精英樹4クローンを2021年に苗木生産の現場に普及開始した。従来の品種に対して,第2 世代精英樹は成長に優れており,その特性を活かし下刈回数の削減や低密度植栽による低コスト施業の実現が求められている。地形条件が異なる3つの試験地(2018年3月354本植栽,2019年3月400本植栽,2020年3月230本植栽)において,最も成長が良かったクローンの2021年の成長期後の樹高中央値はそれぞれの試験地で,374cm(4成長期後),288cm(3成長期後),163cm(2成長期後)であった。今回,上記試験地の各個体のクローン名,植栽時点の苗木の形状,個体位置座標と数値標高モデル(DEM)より得られる環境情報(地形湿潤指数、開空度)を説明変数として,樹高を予測する統計モデルを検討した。本研究は,農林水産省委託プロジェクト「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」の支援を受けて行った。