201 空中ビッターリッヒ法(予報)
○井上昭夫(近大農) 近年,ドローンや航空機レーザを用いた空中からの単木レベルでの森林調査に注目が集まっている。しかし,現在のところ,林分の管理は密度管理図や収穫表のような林分単位で行われている。したがって,単木レベルでの情報を収集しても,その情報は十分に活用されていないものと予想される。この点に鑑みれば,単木レベルではなく,林分レベルでの森林調査で十分との見方もできる。本研究では,ドローン(または航空機レーザ)を用いて,林分の平均樹高を推定する簡便な方法を提案する。この方法は,ビッターリッヒ法を樹高推定に応用した平田法を,空中から地上に向けて行おうとするものであることから「空中ビッターリッヒ法」と名付ける。今回の発表では,空中ビッターリッヒ法の理論と方法について報告するとともに,今後の研究の方向性について紹介したい。

202 宮崎大学田野演習林における航空写真DSMを用いたスギ人工林地位指数マッピング手法の開発
○光田靖(宮大農),宮原史浩 持続的な木材生産を目的とする人工林管理を行うためには人工林適地を判定する必要がある。近年では森林経営管理制度や森林計画制度といった行政の場面でも,人工林適地の判断が求められている。人工林適地を判定する要因の一つとして,自然的立地条件により決定する地位指数が用いられる。そこで本研究では,入手が比較的容易である航空写真から作成された地表面データ(Digital Surface Model, DSM)と航空LiDARから作成された地盤高データを用いて地位指数分布図を作成することを目的とした。樹高および林齢から地位指数曲線を利用して地位指数を推定する方法(ガイドカーブ法)と地位指数と環境要因の関係から地位指数を推定する方法(統計モデル法)の2つの方法により地位指数を推定し,推定値の妥当性を検討するとともに精度検証を行った。

203 深層学習を用いたUAV画像による苗木の自動抽出
○二神慶多(鹿大農),加治佐剛,寺岡行雄 森林資源の適切な管理や持続的な森林経営の実現には再造林の推進が必要である。しかし,これにかかる費用は育林経費の約7割を占めており,再造林が進まない要因となっている。森林整備に関して,植付本数の確認や植栽木のモニタリングが容易になることにより,再造林の低コスト化・省力化への応用が期待できる。一方で,植付の確認を目視で行うと多大な時間と労力が必要になる。そこで,深層学習を使用し,UAV画像から苗木の検出が可能になることで,作業効率の向上や精度の均一化が期待できる。本研究では,調査対象地を鹿児島県霧島市に位置する4年生スギ林とし,UAVで撮影した画像から,深層学習を用いた植栽木の自動抽出を目的とした。

204 システム収穫表を活用した樹冠状況の推定について
○松本純(大分県林研) 近年,造林や育林の低コスト・省力化が求められており,全国的に従来主流だった3000本/ha程度の植栽密度を1,000~2,000本/ha程度(以下,低密度植栽)にまで減らすことで造林経費を削減する取り組みが進んでいる。しかし,低密度植栽に関しては全国的にも事例が少なく,樹冠閉鎖並びに樹冠の状況等について不明な点が多い。 本研究では,大分県のシステム収穫表に既往の樹冠に関する数式を組込み,樹冠閉鎖も含めた低密度植栽における樹冠状況(樹冠長,樹冠幅)の推定,並びに精度の検証を行った。樹冠長の推定精度は概ね2m以内に収まっており,過小推定の傾向があった。樹冠幅の推定精度は概ね0.5m程度だったが,全体的に過大傾向にあった。併せて,樹冠閉鎖の時期を推定したところ,2,500本/haと比較して2,000,1,500,1,000本/haではそれぞれ1年,3年,7年遅れるという結果になった。

205 時系列航空写真によるDSMを用いた宮崎県全域の人工林伐採面積の推定と精度検証
○相原直生(宮大農),光田靖 戦後に始まった拡大造林政策により植林された人工林が主伐期を迎えている。スギの成長に適した気候である宮崎県では皆伐が進んでおり,31年連続でスギ素材生産量全国一位を達成している。しかし,誤伐・盗伐も問題となっており,伐採届などの行政情報では現実の伐採面積を正確に把握できていない可能性がある。よって,広範囲の森林伐採面積を現実に即して推定する方法が求められる。そこで本研究の目的は,宮崎県が定期撮影を行っている航空写真から生成された0.5 m解像度のDSM(Digital Surface Model)をもとに,2時点の地表面高における差により人工林伐採面積を算出する。航空写真DSMを用いて2016年から2020年までの5期間において伐採面積を推定し,他のデータと比較することで時系列航空写真DSMによる伐採地抽出の有用性について報告する。

206 分割時系列解析によるコミュニティ林業の森林保全効果の検証
○太田みわ(九大生資環),太田徹志,溝上展也 熱帯地域の森林減少・劣化は生物多様性や炭素ストックの観点から深刻な問題となっている。近年,これらの森林保全と地域住民の生計向上の両面から地域住民が森林を管理するコミュニティ林業(CF)に注目が集まっている。CFの森林減少に着目した検証は世界各地で進められている一方,データセットの不足などから森林劣化や回復に着目した研究は見られない。また森林減少に関しても,経時変化に着目した研究は既存のデータセット上困難であった。そこで本研究ではCFの設置が森林減少・劣化・回復に与える影響をCFの内外およびCF設置前後の両面から評価した。対象地はカンボジア全土とし,約112万点のポイントを使用した。時系列LANDSATから求めた1989年から2019年における毎年の森林被覆および樹冠被覆率を変数とし,傾向スコアマッチングと分割時系列解析を用いて森林減少・劣化・回復量を分析した。

207 ドイツにおける森林域での通信環境の現状と課題
○池田希(鹿大農),加治佐剛,寺岡行雄 日本の林業における労働災害率は,全産業の平均を上回り,安全確保に向けた対応が急務となっている。その一つの理由として,森林内では通信環境の悪い場所が多く,緊急時の連絡が遅延することが挙げられる。最近ではLPWAなどの通信技術を用いて通信環境の悪い場所での無線通信を可能にする開発が進んでいる。しかし,このような森林内の通信環境に関する研究は少なく,開発を進めるための十分な情報も少ない。そこで,林業先進国であるドイツの森林域での通信環境について調査した。ドイツの林業従事者を対象に,森林内や素材生産現場の通信環境の現状や課題について聞き取り調査を行なった。本調査の結果と考察を発表する予定である。

208 木口画像を用いた丸太識別において輪郭特徴点の抽出方法による画像回転へのロバスト性
○水流聖文(鹿大農),加治佐剛,寺岡行雄 木材流通において,合法木材や森林認証材といった出所や履歴の明らかな木材が求められている。木材のトレーサビリティではこれまでQRコードや電子タグを用いた手法が考案されてきたが,貼り付けなどによる作業の煩雑化やコストの増加,QRコードや電子タグの脱落や損傷といった課題が分かっている。QRコードや電子タグの代わりに丸太固有の特徴(生体特徴)を用いて丸太の識別を行うことが出来れば,上記の課題を解決することが出来ると考える。本研究は,丸太識別の特徴量として木口輪郭の凹凸に着目し,木口輪郭の重心を基準とした輪郭特徴点と髄を基準とした輪郭特徴点の画像の回転に対するロバスト性の違いを明らかにすることを目的とする。

209 林業適地把握に向けた木材生産性および斜面崩壊災発生確率の関係解析
○寺田愛理(九大生資環),太田徹志,溝上展也 森林は木材生産および斜面崩壊抑制の観点で重要な役割を果たす一方で,斜面崩壊の発生地点となりうる。特に皆伐後に生じる若齢林分では斜面崩壊の発生確率が上昇することが知られているため,木材生産および斜面崩壊リスクの両面から林業の適地を検討することが求められている。これまで,木材生産もしく斜面崩壊リスクのいずれかを対象として適地を検証した事例は多くあるものの,木材生産および斜面崩壊リスクの両面で適する林地の条件について,そのような場所があるのか,あるならどの程度の面積か,といった情報はいまだ不足している。そこで本研究では,木材生産性と斜面崩壊の抑制を両立しうるか検証することを目的とし,木材生産性の指標の1つである地位および斜面崩壊発生確率の相関関係を検証した。

210 デジタル航空写真DSMから得られたスギの林冠高変化を用いた地位区分
○黒木俊太朗(鹿大農),加治佐剛,寺岡行雄 広域な森林の経営・計画において森林資源情報を簡易的かつ全域に把握することは非常に重要であり,従来から航空写真の利用が長く検討されている。近年,航空写真はデジタル化され,アナログで行っていた立体視からSfMによるDSM作成ができるようになっており,また,過去の航空写真をSfM処理することにより,樹木や地形の時系列変化を定量的に捉えることができる。本研究では,航空写真から得られる表面高(DSM)を用いて,鹿児島県垂水市に位置する鹿児島大学高隈演習林におけるスギの林冠高(DCHM)の変化と林齢・立地条件との関係を調べた。過去の航空写真は鹿児島県垂水市を対象に,古いものから1966年,最新のもので2019年に撮影されたものを使用した。航空写真から生成される0.5m解像度のDSMとLIDAR計測で得られた0.5m解像度のDEMからDCHMを計算した。また,樹頂点の抽出を行い,上層木樹高を単木で捉え,地形の起伏や立地条件の関係を検討とともに,地位区分を目指した。

211 スマートフォンセンサーを用いたチェーンソー伐倒技術の精度検証
○上野綾(鹿大農),加治佐剛,寺岡行雄 林業での大きな課題として,労働災害率の高さがあり,その改善が求められている。中でも,チェーンソーによる伐木作業は,林業死亡災害の6割を占めており,重大な労働災害を招く非常に危険性の高い作業である。労働災害の撲滅を図るためには,ハーベスタやフェラーバンチャなどの高性能林業機械を用いた伐木作業の促進など,伐倒木へ人が接近することの無い,「チェーンソーを持たない林業」の実現が求められる。しかし現状,ほとんどの伐倒作業は,チェーンソーを使って進められており,現時点でこの実現は難しい。そこで本研究では,チェーンソーの使用を前提として,伐倒作業における安全性と正確性向上を目指すため,スマートフォンセンサーを用いたチェーンソー伐倒技術の高度化を検証する。方法としては,チェーンソーに外部取り付けセンサーとして疑似的に計測アプリを内蔵したスマートフォンを取り付け,伐倒作業を再現し,伐倒精度への影響を検証する。