301 | 南九州で確認された遅咲きのヤマザクラの開花期 |
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○勝木俊雄(森林総研九州),金谷整一 | バラ科サクラ属のヤマザクラ(Cerasus jamasakura)の種内変異を調べるため,鹿児島県の霧島山と紫尾山にそれぞれ20・29個体の調査対象木を設定し,2022年3~5月に週に1回ほど開花期間を観察するとともに,花と葉の形態について分析した。開花期を分析した結果,早咲きと遅咲きに明瞭に区分された。霧島山では標高630~1,110m,紫尾山では標高580~1,030mの高標高地で遅咲きのヤマザクラが確認された。紫尾山の標高580~710m間では早咲きと遅咲きの個体が同所的に出現した。一方,花と葉の形態に関しては,早咲きと遅咲きとの間に明瞭な識別点は確認出来なかった。また,遅咲きのヤマザクラは,熊本県五木村や山江村,宮崎県えびの市などの高標高地にも分布していることが確認された。低標高地に見られる早咲きのヤマザクラが本州などに分布するヤマザクラに相当すると考えられ,南九州の遅咲きのヤマザクラの分類上の扱いは,今後詳細に検討する必要がある。 |
302 | ススキ型および落葉広葉樹型競合植生下におけるスギ特定母樹の枝量分布 |
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○原谷日菜(宮大農),伊藤哲,平田令子,山岸極,溝口拓朗,山川博美 | 再造林コスト削減の一つとして下刈り省略が注目されている。演者らは、ススキが優占する林地(ススキ型)と落葉低木が優占する林地(落葉広葉樹型)にスギ特定母樹を2019年に植栽し、下刈り省略の可能性を検討してきた。これまで、特に樹冠下部のみが被圧を受ける状態で、ススキ型でのスギ植栽木の成長が落葉広葉樹型よりも顕著に劣ることが明らかとなっている。これは、地際まで葉を密生するススキが、スギの樹冠下部での光合成生産を制限するだけでなく、樹冠下部における枝の発達を抑制することで、個体全体の生産構造に影響を与えている可能性を示唆している。そこで本研究では、植栽4年目夏季におけるスギ植栽木の枝の分布を調査し、植生タイプ間および下刈り省略処理間で比較した。その結果、ススキ型と落葉広葉樹型ではスギの着枝量に違いがあり、ススキ型の下部枝への強い被圧が経年的にスギの生産構造に影響していることが示唆された。 |
303 | スギ140cm大苗に対するノウサギ被害の特徴とネット被覆による被害防除効果 |
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○野宮治人(森林総研九州) | 近年,植栽後のノウサギ被害の報告が増えている。140cmのスギ大苗を植栽した試験地(大分県玖珠町:標高750m)で発生したノウサギ被害の特徴を報告する。2020年11月に大苗100本を植栽し,シカの角こすり被害防止を目的とした筒状の2種類のネット資材(A:高さ60cm,B:高さ80cm)でそれぞれ24本と20本を保護し,18ヵ月後に被害調査をした。活着した88本のうち誤伐などの障害木を除いた83本(無処理44本,ネットA21本,ネットB18本)を解析対象とした。ノウサギの食害と主軸の折損被害および剥皮被害を,それぞれ67本と8本と33本で確認した。主軸の折損部位の最大高は85cm,最大径は13.8mmだった。剥皮被害は25~55cmの高さに多く,剥皮強度が主軸周囲長の3/4を超えると枯死率が50%を超えると推定された。ネット資材は折損被害を軽減できなかったが剥皮被害を軽減した。 |
304 | 大苗植栽による低コスト造林方法の確立について |
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○武原龍行(九森局) | 大分森林管理署では、平成25年度から、大苗植栽により下刈りや従来型シカネット等によるシカ侵入防止対策を省略し、大苗のシカ食害防護効果を検証し、造林の低コスト化を実証するため取り組んでいる。しかし、平成29年度までの実験結果から、大苗(苗高160cm)植栽により無下刈りでの成長は可能との印象は得ているが、シカによる剥皮被害等が発生したことにより、引き続き傾斜地の植栽による大苗効果の低減に対する対策、大苗幹部への剥皮被害等の防護対策、コスト等の検証等について、平成30年度から新たな試験地を設定し取り組んだものである。 |
305 | 九州地域における低密度植栽の検証について |
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○岩下正斉(九州局技セン),白濱正明,大寺義宏,西林寺隆,山形良平 | 九州森林管理局で平成16年度に各森林管理署等において実施した、低密度植栽(1,500本/ha)について、令和3年度に植栽後17年経過時の成長状況等の調査を行い、その結果を取りまとめるとともに、造林コスト低減における有効性を検証した。 |
306 | 宮崎県へのチャンチンモドキ導入についての検討(Ⅱ) |
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○上杉基(宮崎県林技セ) | 九州の西部に自生しているウルシ科のチャンチンモドキを本県に導入する試みとして、育苗と植栽地の1年目の成長について既報した。今回は、5年間の成長量、増殖や造林における課題について報告する。2017年2月に27本を3.0m間隔(約1,000本/ha)で植栽、台風による倒伏等で3本枯死し、現在は24本となった。5成長期末の平均樹高は10.7m、平均直径(地上140cm部位)は、10.2cmである。増殖法として休眠枝ざしを試み、発根はあったが、発根率が非常に低いことがわかった。 |
307 | スギ特定母樹の中苗活用による下刈り省略 -5年間の試験結果に基づく可能性とリスク評価- |
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○伊藤哲(宮大農),平田令子,山岸極,溝口拓朗,山川博美 | 演者らは2017年からスギ特定母樹中苗を用いた下刈り省略試験を行ってきた。本報告では5年目までの計測結果を基に,下刈り省略の可能性とその後のリスクについて評価した結果を報告する。試験地では3年目以降の下刈りを省略したが,樹高・直径共に植栽木の成長に大きな停滞は見られず,このケースでは3年目以降の下刈り省略の可能性が示された。一方,毎年下刈りを実施した試験区での普通裸苗の成長と比べると,樹高では4年目以降,直径では5年目に成長低下の傾向が検出され,5年目末にはいずれも普通裸苗に追いつかれた。また,競合植生と植栽木の樹高差もあまり広がっていないことから,今後も樹冠下部の被圧による成長停滞のリスクがあることや,除伐(または再下刈り)が必要になる可能性が示唆された。なお,本研究の一部は農林水産省による戦略的プロジェクト研究推進事業「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」(18064868)による支援を受けた。 |
308 | ヒノキ壮齢林における間伐手法の違いが残存木の直径成長に与える影響 |
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○溝口拓朗(宮大農),伊藤哲,山岸極,平田令子 | 近年,一斉人工林において列状間伐が推進されている。列状間伐は立木の形質や優劣に関係なく,一定間隔や幅で列状に間伐する方法である。そのため,伐採および搬出が容易で作業がしやすく,安全性が高いというメリットがある。一方で,定性間伐とは異なり,残存木の中に一定本数の劣勢木が含まれる点や,残存木が伐採列に接するかどうかといった残存木の位置で間伐後の成長が大きくばらつく可能性がある。そこで本研究では,間伐手法の違いが残存木の成長に与える短期的な影響を明らかにすることを目的とした。調査は熊本県中部に位置する53年生ヒノキ人工林で行った。間伐実施前に樹高,枝下高及びDBHを測定した。2015年6月に間伐を実施し,列状間伐区,定性間伐区,無間伐区を設置し,経時的にDBHを測定した。本発表では,間伐から7年後の2022年8月までの結果に基づき,列状間伐後の立木位置や期首サイズを考慮して解析したのでその結果について報告する。 |
309 | 下刈り省略試験地におけるスギ特定母樹4系統の植栽後4年目夏までの成長 |
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○田村弥和(宮大農),伊藤哲,山岸極,溝口拓朗,山川博美,平田令子 | 主伐後の再造林コストの縮減方法のひとつに下刈り省略がある。下刈り省略は、植栽木が競合植生の被圧に対して優位性を保つことが前提となっており、特定母樹等の成長に優れた苗の導入が注目されている。しかし、特定母樹の植栽事例や下刈り省略の試行事例はまだ少なく、下刈り省略に対してどのように反応するかは十分に明らかになっていない。演者らは、2019年1月に特定母樹4系統(県姶良3、4、20号及び高岡署1号)と在来品種(タノアカ)の中苗を小松国有林の試験地に植栽し、通常下刈り区及び下刈り省略区(植栽後1年目及び2年目を省略)を設定して継続調査を行ってきた。植栽後3年目までの結果では、樹長と直径において成長量に系統間差が認められたものの、被圧に対する反応には系統間差がまだ検出できず、下刈り省略に有用な系統の特定には至っていない。本講演では、各系統の被圧に対する植栽後4年目夏までの成長を分析した結果を報告する。 |
310 | 傾斜処理したスギコンテナ苗の現地植栽後の成長 |
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○三樹陽一郎(宮崎県林技セ),上杉基 | スギコンテナ苗は,植栽後の倒伏を低減するために形状比(苗高/基部直径)は小さいことが望ましいとされている。これまでの研究で,コンテナ苗育成中に傾斜処理を施すと,苗高伸長の抑制と地際直径の成長促進により,形状比が小さくなることを明らかにした。また,傾斜処理苗と無処理苗を当センターの苗畑に植栽したところ,傾斜処理苗の樹高は,植栽直後では無処理苗より低かったが,1成長期後は追いつくほどの成長を示した。本研究では,傾斜処理苗を実際に造林地に植栽し,2年間の成長状況を調査した。材料は特定母樹2系統で,傾斜処理苗と無処理苗を育成(2年生苗)し,2020年3月に宮崎県延岡市北方町の造林地に植栽した。傾斜処理苗の無処理苗に対する平均樹高は,植栽時では低かったが,1成長期後(2021年1月)では同等になり,2成長期後(2022年2月)も同等以上であった。これらの詳細を地際直径,形状比の状況と併せて報告する。 |
311 | 被陰と食害に対するケヤキ苗とハルニレ苗の反応の違い |
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○羽田珠里(宮大農),伊藤哲,平田令子,山岸極,溝口拓郎 | 演者らは既報で,低木層刈払いに対する植栽広葉樹苗の反応を調べ,被陰解除の効果より食害リスク上昇の効果が大きいことを報告した。しかし,被陰と食害に対する耐性は樹種によって異なると考えられる。そこで,本研究ではケヤキおよびハルニレの被陰と食害に対する耐性の違いを明らかにすることを目的として,既往試験地における結果を樹種間で比較するとともに,被陰と枝葉を切断する模擬食害を組み合わせた処理実験を行った。既往試験地においては,被陰下において食害を受けていない個体で,ケヤキに比べハルニレで樹高成長量が少なかった。また,ケヤキに比べハルニレでより食害を受けていた。しかし,樹高成長量を比べたところ被陰下で食害を受けたケヤキは成長量が低下したが,ハルニレでは成長低下は認められなかった。また,被陰・摘葉実験では初回摘葉後の再生量は開放環境下のケヤキで最も多かった。講演では3回目摘葉後の結果も含めて報告する。 |
312 | 特定母樹を含むスギの植栽初期における成長および樹冠形の系統間比較 |
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○山岸極(森林総研九州),中川湧太,白坂和雅,久保田正裕,山川博美,野宮治人 | 近年、再造林コストの削減を目的とした下刈り回数の削減が課題となっている。そのような中、優れた初期成長を示す特定母樹系統のスギが注目されている。しかし、在来系統のスギと特定母樹系統の初期成長を比較した報告は少ない。特定母樹を植栽した試験地での観察では、系統によって樹冠形が異なる傾向がみられた。樹冠は同化器官である葉とそれを支持する枝で構成されているため、樹冠形の差異が成長特性に寄与している可能性がある。しかし、特定母樹系統間の成長や樹冠形の差異を数値的に比較した研究は少ない。本研究では、特定母樹系統を含む複数系統のスギ苗木を同一の苗畑に植栽し、植栽後2~3年目の樹幹および樹冠形状を測定した。加えて、同植栽木を伐採し、葉・枝・幹に分けて器官重を測定した。これらのデータを基に、系統間の成長および樹冠形の比較を試みたので、その結果を報告する。 |
313 | 沖縄島北部やんばる地域の伐採地の尾根における林縁木の衰退傾向 |
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○兼城華鈴(琉大農),高嶋敦史 | 世界自然遺産に登録された沖縄島北部やんばる地域では,緩衝地帯や周辺管理地域で伐採を行う際,森林の利用と保全の調和が必要であると考えられる。特に,尾根付近においては,乾燥や風などによる林縁木の樹冠の衰退が散見される。そこで,本研究では,2箇所の伐採地の尾根でこの地域の天然林の代表的な高木であるイタジイとイジュについて,林縁木の着葉量を6段階の「健全度」でスコア化し衰退の状況を記録した。その結果,2箇所の伐採地間で林縁の衰退状況に異なる傾向が確認された。また,同じ伐採地の林縁であっても,健全度の低下が顕著な尾根とそうでない尾根が存在した。これらのことには,林縁の立地や周辺の地形による影響があると考えられた。 |
314 | 南九州市のヤマザクラ自生地におけるオオシマザクラの野生化とその侵入状況 |
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○祁答院宥樹(鹿森技セ),片野田逸朗,勝木俊雄 | 近年,企業やボランティア等による緑化活動や森林整備活動が活発化し,広葉樹が植栽される機会も増えており,サクラはその中でも多く植栽される樹種の一つとなっている。ところが,サクラは種間交雑しやすく,特にオオシマザクラは丈夫で繁殖力が強いことから,オオシマザクラの野生化による在来種の遺伝子攪乱が全国各地で懸念されている。このような中,片野田ら(未発表)は南九州市知覧町東別府に自生するサクラを調査し,その約8割はオオシマザクラとその雑種であったことから,在来種であるヤマザクラの遺伝子攪乱を懸念している。しかし,調査本数が少なかったため,その地域におけるオオシマザクラの侵入状況の実態やヤマザクラ個体群への影響を把握するまでに至っていない。
そこで,知覧町東別府における調査範囲を拡大し,ヤマザクラやオオシマザクラとその雑種の分布状況や生育環境および個体サイズを調査したので,その結果について報告する。 |
315 | 先駆性樹種が繁茂した造林地における下刈り実施時期の違いが雑草木の再生力に及ぼす影響 |
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○穂山浩平(鹿森技セ) | 森林を適切に管理し,林業を持続させていくためには,造林・育林の低コスト化は不可欠であり,その低コスト化の実現には下刈りの省力化を外すことはできない。
このような中,鹿児島県のスギ・ヒノキ人工林は本格的な利用期を迎え,主伐面積及び再造林面積は増加傾向にあり,下刈りを必要とする造林地の面積も累積的に増加しているが,雑草木の種類やその再生状況は地域や施業履歴により異なる。中には下刈りを複数年実施しても雑草木の再生力が低下しない造林地も見られることから,このような造林地において下刈り後の雑草木の再生状況を把握することは,下刈りの省力化に向けた効果的な雑草木の再生抑制方法を検討する上で重要である。
そこで,先駆性樹種の繁茂が著しい4年生のスギ造林地において,下刈り実施時期が異なる試験区を設定し,下刈り後の雑草木の再生状況を調査したので,その結果を報告する。 |
316 | ムクロジ種子の発芽期間の短縮に向けた播種前処理の検討 |
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○畠中雅之(鹿森技セ) | 斜面下部域や谷底面においては,不採算人工林を針広混交林化するための植栽樹種としてムクロジを選定している(片野田・畠中 2020)。今後,ムクロジを植栽樹種として普及していくためには,ムクロジの育苗技術を確立する必要がある。当センターのこれまでの調査で,ムクロジ種子の発芽率向上にはサンドペーパーによる研磨処理が有効であることが明らかになっているが,発芽は12週目でピークを迎え,27週目まで続いた。このように発芽までの期間が長くなると苗木サイズが不揃いになり,育苗効率の悪化と成長不良苗木の増加を招くことが危惧される。そこで,サンドペーパーによる研磨処理後に浸水処理を加えることで,種子の吸水効率の改善による発芽期間の短縮を試みたので,その結果を報告する。 |
317 | オオシマゴマダラカミキリの被害を受けた沖永良部島スダジイ林の林分構造とアカギの侵入状況 |
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○片野田逸朗(鹿森技セ),畠中雅之 | 沖永良部島は隆起サンゴ礁の島であるが,最高地点である大山の山頂付近には非石灰岩地帯の植生であるスダジイ林が成立しており,水源林として長年大切に管理されてきた。ところが,1990年頃からオオシマゴマダラカミキリによる被害が発生し,スダジイが枯死しはじめた。発表者の片野田は1994年に被害林分を調査し,被害後の林相変化を予測しているが,その後の調査は行っていない。一方,生物多様性への関心が高まる中,2015年に環境省は生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リストを作成しており,沖永良部島の大山で野生化しているアカギも緊急対策外来種として指定されている。そこで,27年後の2021年に,オオシマゴマダラカミキリの被害を受けたスダジイ林の林分構造とアカギのスダジイ林への侵入・定着状況について再調査を行ったので,その結果について報告する。 |
318 | 沖縄島北部のリュウキュウマツ人工林における斜面位置別の林分構造の比較と伐区形状・サイズの違いによる木材生産性の検証 |
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○谷口真吾(琉球大農) | 過去に松材線虫病の被害を受けた沖縄県楚洲県営林50林班49年生リュウキュウマツ人工林において,斜面(あるいは微地形)系列により斜面長を3区分した斜面位置ごとの林分構造の変化と材積量を毎木調査により検証した。本発表は,目的樹種であるリュウキュウマツと天然更新由来の侵入木の双方を含めた種構成,樹種ごとの直径階別本数分布,材積量をもとに,斜面位置の違いによる樹種の分布特性,林分構造の比較,収穫伐採を実施すると仮定した場合に生産される材積量等を比較した。さらに,環境に配慮した伐採法として沖縄県で現地実証がされている「やんばる型森林業」で提唱された帯状伐採(小面積帯状皆伐)により,尾根部と渓流環境を含む谷部の林分を伐採せずに残置し,斜面中腹域のみの立木を伐採する場合の収穫木の出材量を試算し,大面積皆伐での出材量と比較する。そして,収穫伐採としての帯状伐採と大面積皆伐の伐区形状とサイズの違いによる木材生産性を考察する。 |
319 | スギ造林地における下刈り終了後のスギ植栽木と競合植生の成長 |
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○山川博美(森林総研九州) | 再造林コストを削減するため、最適な下刈り回数の提示が課題となっている。近年では、植栽木の樹高および植栽木と雑草木の競合状態を指標とした下刈り要否の判断基準が提示されている。しかし、これらの基準は、毎年の下刈りを実施している林分において、その年その年の下刈り要否について言及されている。本研究では下刈り終了の判断基準を明らかにするため、宮崎県宮崎市および日南市の2~5年生スギ人工林に下刈りを省略した区画を設定し、その後の植栽木および競合植生の樹高の推移を観察した。毎年下刈りを実施しても、植栽木の樹高が1.7m程度までは、下刈り後の1年間で再び競合植生によって植栽木が覆われることがわかった。また、植栽木と競合植生の樹高差が50cm程度以上あると、下刈りを省略しても翌年までに再び競合植生に覆われる確率はかなり小さくなった。これらの結果に基づき、下刈り終了の判断基準について議論する。 |
320 | ノウサギ食害を受けるコウヨウザン苗の主軸の高さおよび幹直径の上限 |
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○鵜川信(鹿大農),藤澤義武,大塚次郎,近藤禎二,生方正俊 | 早生樹コウヨウザンはノウサギ食害を受けやすく,当該造林樹種の普及促進を図る上で,ノウサギ食害の防除は必須の項目である。現在,ツリーシェルターや忌避剤など様々な防除が試みられているが,一方で,それらの防除をいつまで続けるのか,その基準は示されていない。そこで,本研究では,ノウサギ食害を受けるコウヨウザン苗の主軸の高さと幹直径の上限を明らかにすることを目的とし,スギ林皆伐跡地に様々なサイズのコウヨウザン苗を植栽し,主軸におけるノウサギ食害の経過観察を行った。その結果,主軸を切断された部位の高さは直立した苗木で68cm,傾斜した苗木で最大90cmであり,切断部位の幹直径は最大で12.5mmであった。したがって,おおよそこれらの上限値に達するまで植栽苗を保護すれば,苗木が甚大な被害を受けないことが窺われた。本研究は,農林水産省委託プロジェクト「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」の支援を受けて行った。 |
321 | ドローンを用いたスギ低密度植栽22年生林分の林況評価 |
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○米森正悟(鹿森技セ),畠中雅之,穂山浩平 | 近年、再造林の低コスト化が求められており、低密度植栽はそのための有効な方法として期待されている。一方、下刈り作業は労働力・コスト面で大きな負担となっていることから、下刈りの省力化を図ることも不可欠である。そこで、当センターでは造林コストの低減を目的に、2001年に低密度植栽と大苗植栽による無下刈りを組み合わせた試験地を設定し、12年生時の成長量調査を実施したが、その後の調査は行っていなかった。そのような中、ドローンの普及に伴い、森林調査においても上空から林分の情報を容易に取得することができるようになり、SfMソフトと組み合せることで樹高や樹冠等の3次元情報も取得可能になるなど、森林調査におけるドローン活用に期待が高まっている。そこで、植栽密度の異なる(1,500/ha、2,000/ha、3,000/ha)スギ22年生林分において、ドローンを用いた林況の評価を試みたので、その結果について報告する。 |
322 | 秋に萌芽枝整理が行われた株立ち個体における翌春の萌芽発生状況 |
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○渡部颯太(九大生資環),作田耕太郎,宮沢良行 | 根株移植は,樹木個体を地際から伐採した後に掘りとって緑化資材として利用するものであるが,高い萌芽能を有する樹種では移植後の適切な管理(萌芽枝整理)が必要となる。萌芽枝整理にともなう葉量減少は個体レベルでの生理状態や,その後の成長に影響するため適切な伐採量を設定する必要があるが,指針となる情報は不足している。本研究では,九州大学伊都キャンパスにおいて秋に萌芽枝整理が行われたアラカシ根株移植個体を対象として,翌春以降の新たな萌芽の発生状況を明らかにした。対象個体は2021年11月に強度処理(幹断面積80%整理),弱度処理(幹断面積50%整理)が施された個体,および対照個体のそれぞれ1個体である。2022年5月から新たに発生した萌芽について,発生本数と時期,長さ,基部直径などを追跡調査した。これらの調査は萌芽が発生しなくなるまで行った。ここでは,特に処理強度の違いによる差異を中心に報告する。 |
323 | 沖縄島やんばる地域のリュウキュウマツ人工林に樹下植栽されたイヌマキの成長 |
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○高嶋敦史(琉大農),松川駿真 | 沖縄県内では,イヌマキは通直で抗蟻性や抗湿性を併せ持つ高級材として古くから利用されてきた。昭和50~60年代には人工造林も広く行われたが,沖縄島では害虫であるキオビエダシャクの被害が広がったことから,やんばる地域などでイヌマキ植栽木がまとまって生残している造林地は稀である。そのような中,やんばる地域で約50年生のリュウキュウマツ人工林に樹下植栽された28年生のイヌマキがまとまって生残している林分が確認された。そこで本研究では,この林分に調査区を設け,やんばる地域におけるイヌマキ植栽木の成長記録を残すこととした。調査区内部を傾斜に基づき「尾根」「斜面上部」「斜面下部」と区分した結果,イヌマキ植栽木は斜面下部で胸高直径が小さく,着葉量も少なくなっていた。このことは,リュウキュウマツを中心とした上層木による被圧や斜面による被陰,キオビエダシャクによる葉の食害などが影響した結果と考えられた。 |
324 | 脊振山系および紫尾山におけるブナ個体の樹齢推定と肥大成長 |
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○舟戸陽介(九大生資環),作田耕太郎,金谷整一 | ブナは日本全国の冷温帯域に分布しているが,近年の気候変動にともなうシミュレーションによると,その分布域が将来的に狭まると予測されている。特に低緯度に位置する九州地方では,気候変動の強い影響を受けると考えられているものの,九州地方におけるブナ林の現状については不明な点が多い。発表者らは,これまでに九州地方におけるブナ林の現状を把握する目的の一環として,三郡山系についてその特性を明らかにしてきた。三郡山系の砥石山周辺では,これまでに九州地方におけるブナの分布下限とされていた標高700m以下において,常緑広葉樹種の混交割合が高いブナ林がここ150年以内に形成されたと推測された。本研究では,九州地方におけるブナ林の特性をより明らかにするために,九州北部の脊振山系および南限域の紫尾山において,ブナ個体の年輪コアを採取して樹齢および肥大成長速度などを推定し,既報の砥石山での結果と比較しつつ報告する。 |